16



あの後、色々とグダグダした葛藤が俺の中で
渦巻いて、絡み合って、訳が分からなくなった俺は、
結局二時間も待ってられなくて、一時間半ぐらいでマックスを起こした。
自分でもよくもった方だと思う。

こんな俺の混乱も全部呑気に寝ているコイツのせいだと思ったら、
なんだか腹が立って気付いたら、マックスの頭をどついていた。
一回どつくと、マックスがもぞもぞと動く。
それでも手を離してくれないから、また何か自分でもよく分からない何かがこみ上げてきて、
べしべしと何回も頭を叩いた。

「・・・痛い」
そこで漸くマックスが不機嫌そうに口を開く。
むっくりと体を起こしてぼうっと俺を見つめる。

「うっさい」
そんなマックスの様子に、俺の中の何かは全然治まらなくて、むにゅっとホッペを抓る。

「…なんで半田、顔赤いの?」
抓られても、怒るより先にマックスは人が一番指摘して欲しくないことを訊いてくるから本当にムカつく。

「うるさい、うるさい、うるさーい」
俺はマックスの質問なんて無視して立ち上がる。
そうするとあんなに固く握られていた手は簡単に離れてしまう。

「確かに起こしたからな!
俺はもう知らない!!」
俺がマックスを見下ろしてそう言うと、マックスは眠そうに後頭部をぽりぽり掻くだけで何も言わない。

「帰る!!」
いくら俺が怒っていても、マックスは全然気にしない。
それは確かにいつものことなんだけど、今日はやけにそれがムカついて、
俺はすたすたと病室に向かって歩き始める。

マックスも俺の後ろから病室に戻る為に付いてくる。
欠伸なんかしながら付いてくるのがムカつく。

「ねえ」
途中でマックスが呼んだけど、振り返るなんて絶対しない。してやるもんか。

「半田抱き枕、結構寝心地良かったよ」
でも、そんな言葉が後ろからして、俺は思わず振り返る。

「あ、また顔赤い」
マックスがにやりと笑ってそんなこと言うから、もっと頭に血が上る。

「半田、可愛いー。
やっぱそれでさっきから怒ってたんだ」
ニヤニヤしてそう覗き込んでくる。
そんなこと言われたらかっとなる。

「お前っ!
お前があんな風に抱きついてくるから、俺はっ!」
俺が怒鳴ってもマックスは何?って顔で俺を見てくる。

「…もう、いい」
なんだか馬鹿らしくなって、俺はマックスを無視して病室に急ぐ。
後ろからマックスが笑う声がするけど、今度こそ本当に完全無視だ。



俺はぷりぷりして病室のドアを開ける。
俺のマックスに対する混乱もそこで一旦霧散してしまう。

・・・そこにいた円堂のせいで。


サッカー部の部室はキャラバンバスに姿を変えてしまった。
俺達はサッカー部員なのに、その部室には入れない。

・・・俺達は置いていかれた。


代わる代わる出発の前に元気な部員が見舞いにやってくる。
風丸、壁山と栗松、あの時にいなかった一之瀬と土門、
俺を見て顔を引き締めていった染岡、
妹を頼むと頭を下げた豪炎寺、
鬼道や目金にマネージャー三人までちゃんと来た。
皆、見舞いという名目で別れを言いに来た。

俺は見送る側。
悔しいけど、その事実は俺にはどうしようも出来なかった。


キャラバンバスが出発するという時間を俺は病室のベッドで迎えた。
傍らには同じように怪我をしているマックスと影野。
俺は窓の外を見ながら二人に言った。

「俺、明日ここ抜け出して学校行ってくる。
どうしても部室が見たい」

「いいんじゃない。
今日付き合ってもらったし、ボクも行く」
俺が二人を見ずにそう言うと、マックスが一緒に行くって言い出した。
俺は吃驚して二人に振り返る。
マックスはいつもみたいななんでも無いって顔しているし、
影野もいつもみたいに何も言わない。

「…おう、じゃあ二人で行ってくるか。
影野は悪いけど留守番な」
俺は正直壊れた部室を目の当たりにするのがほんの少し怖かったから、
マックスが一緒に来てくれるのが心強くて少し笑って言う。

「うん、行ってらっしゃい」
影野もやっぱり少し笑ってそう言う。

「よっし、んじゃ決まりな」
俺がそう言って自分のベッドに戻ろうとすると、影野が小さく俺を呼んだ。

「半田」

「ん、なんだ?」

「明日部室に行ったら…」
俺が影野の方を向くと、なんだか言い辛そうに呟く。
一旦言葉を切って俺を見て、
それからちらりと、もうベッドに戻ってしまったマックスを見てから少し笑って手を左右に振る。

「ううん、何でも無い。
学校は瓦礫の山だろうから、明日気をつけて行ってきてね」

「おう」
俺は笑ってそれに応えた。


 

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