14
昼食が済むと、まだ体力が回復していないのか影野は疲れた様子ですぐ眠りについてしまう。
「半田」
影野が寝たのを見計らったようにマックスが俺に声を掛けてくる。
「ちょっと一緒に来て」
そう言うと、目的も言わずに病院内を連れまわす。
「おいおいおい!」
きょろきょろと辺りを見ながら、ついには中庭にまで出てしまう。
俺が慌てて声を掛けると、前を歩くマックスが振り返る。
「しょーがないじゃん、いい所が無いんだもん」
振り返ったマックスはいつも通りのマックスで、
ずっと様子が変だったのを密かに気になっていた俺は、
何も言わずに振り回されているのに何だかほっとしてしまう。
「ここがいいかな」
あまり人が来なそうだけど、日当たりのいい芝生の所でマックスがそう言って立ち止まる。
「半田、ここ来て」
振り返って名前を呼ぶから、俺は訳も分からずマックスの傍に近寄る。
すると、マックスが急に俺にタックルをしてきた。
「抱き枕!」
「なっ!?」
急にタックルされて尻餅をついた俺は、マックスの言葉の意味が分からない。
・・・今、抱き枕って言ったよな?
「これからここで寝るから、今から半田はボクの抱き枕ね」
「はあ!?なんだよ、それ!!」
タックルの状態…つまり腰に抱きついたまま、俺の膝の上にマックスが顔を埋める。
うつ伏せで、所謂膝枕の状態のマックスの頭を叩く。
「いいじゃん、ボクは今心底眠いんだよ。
二時間したら起こしてね」
「二時間も!?」
「あ、起きた時に半田がいなかったら、半田のギプスは放送禁止用語だらけになるから」
「ちょっ、何でだよ!?」
「もー、ボクはもう疲れちゃって、何も考えたくないんだって。
半田なんだから、それぐらいわかろうよ」
「意味分かんねぇし」
「はいはい、いいからボクは寝る!」
そう言うと、ぐーぐーと言って寝たふりを始める。
もう、梃子でも動かないつもりだ。
「ったく」
俺は仕方なく、脚を崩して少しでも辛くない状態に座りなおす。
どうせ俺はマックスには勝てないんだ。
ちょっと変だったマックスを心配して、のこのこ着いてきた俺が悪い。
「二時間って、時計も何も無いから適当でいいよな?」
俺が訊ねると、マックスはうつ伏せのまま、何も言わずに親指を立てる。
・・・了解らしい。
「ふぁーあ」
俺は大きく伸びをする。
これから二時間も動けないなんて、どんな罰ゲームだ。
膝の上に頭があるから、たぶんすぐにも足が痺れるんだろうな、なんて考えて足をもぞもぞさせていると、
寝たと思ったマックスが小さな声で言う。
「…半田、重かったら降ろしてもいい。
でも・・・ずっと傍にいて。
…ボクを一人にしないで」
そう絞りだすように言ったマックスはうつ伏せで、
どんな顔でそう言ったのか俺には見えないから分からない。
でも、そんなこと言われた俺の顔は、鏡を見なくたって真っ赤になってるって分かる。
マックスがあんなこと言うから、今までなんとも思わなかった今の体勢が忽ち恥ずかしくなってくる。
さっきまで普通にマックスに触れていた手を、どこに置いていいか分からない。
俺が手のやり場に困っていると、マックスから寝息が聞こえてくる。
あっという間に寝てしまったマックスに、さっきの「心底眠い」って言葉を思い出す。
俺はふーっと長い溜息を一回すると、きょろきょろと辺りを見渡した。
辺りに人影は無く、人の来る気配もない。
これなら誰かに見られる心配は無い。
俺はちょっと安心して、恐る恐るマックスの頭に、行き場をなくしていた手を置く。
起きるかなとも思ったけど、全く起きる素振りもないマックスに、俺は安心して頭をゆっくりと撫で始める。
今まで、ずっと少し変だったマックスが、俺の膝でほっとしたように眠っている。
――それが何だかくすぐったい。
俺は、自分の膝の上にマックスがいる今の状況にいっぱいいっぱいで、
なんでマックスがずっと変だったのかまで頭が廻らない。
なんで「心底眠い」のかなんて分からない。
それに、それに・・・。
なんで俺の心臓はこんなにも早く時を刻むのか、その理由なんて知らない。
俺は、すーすーというゆっくりとしたマックスの吐息と、
とっとっと、と駆け足で刻む俺の心臓の音を感じながら、
マックスを起こさないようにゆっくりとマックスの頭を撫で続けた。
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