13



「影野!」

次の日、朝の検診が終わった後、影野がやっと俺達の病室に移動してきた。
思わず駆け寄った俺たちに、
ベッドで安静にしていなきゃいけないから気をつけてね
、と看護師さんが厳重に注意していったけど、
それでも昨日見た影野と違って、顔色も普段の感じに戻っていて、
それに何より起きていて、話せるし、動いている。
それだけで、昨日の不安が消えていく。


「心配かけてごめんね」
大怪我してるのは影野なのに、そんな風に謝ってくる影野が、本当にらしくて、
ああ、本物の影野だって思えて嬉しかった。

「本当だぜ、こっちはマジで心配したんだからな。
な、マックス」
俺はにっと笑って、傍らのマックスに話を振る。

「ん?・・・ああ、うん」
でも、マックスの返事は芳しくない。
影野がこうやって戻ってきたっていうのに、今だ調子の戻らないマックスに首を捻る。
でも、その時丁度部屋に入ってきた円堂に、その疑問もあっという間にどこかへいってしまう。

「皆!調子はどうだ!?」
そう言いながら入ってきた円堂は、昨日会えなかった影野を見て、顔を綻ばせる。

「影野!もう大丈夫なのか!?」

「うん、当分安静にしないといけないんだけど、もう大丈夫だよ」

「そうか!それを聞いて安心したよ」
にこにこして影野の肩を叩こうとして、直前でその手を止める。

「あっ、安静にしなきゃ駄目なんだよな」
はっと気付いて、そう失敗したって顔で頭を掻く円堂に、病室は笑いに包まれる。
入院して初めて、病室に起こった笑いだった。
笑いが収まると、円堂が真面目な顔で言う。

「俺、これから学校に行ってくる。
学校がどうなったかちゃんと見たいし、
これからのことを皆で話し合うつもりだ」
そこで一旦言葉を切る。
皆の顔をそれぞれ見渡すと、きっぱりとした口調で宣言するみたいに言う。

「俺はやっぱりサッカーを破壊の道具に使う宇宙人を許せない。
あいつらがどんなに強い相手だとしても、俺は絶対に諦めない。
最後まで戦い抜く。

だからお前達も・・・!」

円堂は珍しく最後まで明言を避けた。

円堂は一本筋の通った熱いヤツだけど、それを他人に押し付けるようなヤツじゃない。
人の意思とかちゃんと尊重できるヤツで、
いつだって「頑張れ」じゃなくて「一緒に頑張ろう」って言うヤツだった。

だから、たぶんこの時もそんな言葉が続くはずで。
その言葉を言わなかったのは、怪我をしてしまった俺達に負担を強いることをしたくないからだと、
一年からずっと一緒にいる俺はすぐ分かってしまった。

飲み込まれた言葉は円堂の優しさと、
反面、こんな時に怪我をして一緒に戦えない俺の不甲斐無さを実感するものだった。
だから俺は円堂の気持ちに応えるように、飲み込んだ言葉を代わりに紡いだ。

「分かってるって!
俺達も早く怪我を治して、戦線復帰するから。
それまで持ち堪えてくれよな!」
俺が明るくそう言うと、円堂の顔がぱっと明るくなる。

「…半田、…皆。
早く良くなってくれよな!!」

円堂はそう言うと一人一人に声を掛けてから、学校へ向かう為に帰っていった。


円堂が帰ってしまうと、昨日まで黙りがちだった病室に会話が戻ってくる。
円堂の言葉は、俺たちから宇宙人に対する恐怖心を和らげ、
そして悔しさを増幅させた。
小さいけれど結構勝気な少林が真っ先に悔しさを言葉にする。
それに怪我したものは仕方無いと宍戸が反論すると、一年同士で口論になる。

俺はどっちの気持ちも分かるから、取り成すことしかできない。
影野はいつも通り、黙して何も言わない。
そして、いつもだったら皮肉の一つも言いそうなマックスも、ただ黙ったまま、
いつまでも影野の隣に立っていた。


 

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