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治療室に入っていった影野の両親を追って、俺たちも部屋の前に移動する。
すぐに出てきた影野の親の話では、影野は別に命に別状があるような状態では無いらしい。
肋骨が骨折してて、なんとかって内臓に傷ができてて、それを塞ぐ処置をしたってことらしい。
お腹の中で出血してたから、さっきショック症状を起こしたんだって。
今は輸血をしていて手術をしなきゃいけないって程、重症ではないらしい。
俺達はそれを聞いてほっとした。


でも実際に少しだけど会えた影野は眠っていて、
輸血の管に繋がれていて、
今だ顔は真っ青だった。


病院のベッドで横たわる影野は、それでなくてもしっくりしすぎていて、
何でこんなに病人が似合うんだと少し腹立たしくなってくる。
あんな風に病人の振りして昼休みに病院に来てたからバチが当たったのかな、
なんて馬鹿なことをほんの少しだけ思った。
それぐらい影野に病院は似合っていて、大丈夫なんて言葉ぐらいじゃ安心できない。

それはたぶんマックスも同じ気持ちで。
影野の指をぎゅっと握ったまま、部屋に戻ろうとしない。
影野の母ちゃんに促されて、やっと俺達は自分達の病室に戻ってきた。


病室に戻ってきて、マックスは親に怒られてたみたいだった。
でも、沈んだ顔は怒られたせいじゃないってことはすぐ分かる。
暫くすると円堂達も顔を見せてくれて、あっという間に時間が過ぎてしまう。


病院の夜は早くて、面会時間が終わって、食事やなんだかんだが終わると、すぐ消灯時間になってしまう。
俺達は今日の色々なショックで無言になりがちだったから、
おしゃべりをする気分になれず消灯時間になると皆そのまま何も言わずに横になってしまう。


消灯時間になっても影野は俺達の病室に移動してくることは無かった。
六人部屋に四人のまま、入院初日は終わる。


俺は無人のベッドを眺めながら、目を瞑る。
頭の中は、黒いサッカーボールや、壊れた校舎、倒れた影野の姿なんかがぐるぐる廻って、
疲れていたのに中々寝付けない。
それは皆同じみたいで、時折衣擦れの音が聞こえてくるけど寝息は聞こえてこない。
皆が皆、起きてるって気付いているはずなのに声を掛ける者はいない。
俺もそんな気はさらさら無かった。

そんなことをしたら、夜の帳のせいで歯止めが利かなくなりそうだったから。
悔しさ、そして恐怖。
どちらも一度口にしたら止まらなくなる。
それが分かっているから誰にも声を掛けないし、
たぶん誰も声を掛けない理由も同じだと思う。

随分長い間、じりじり布団の中でこれからのことを思い悩んでいると、
それでも少しずつ寝息が聞こえてくる。
俺も、気付いたら寝ていた。



だからマックスがずっと、ずっと誰もいないベッドをじっと見ていたことに、
俺は気付かなかった。
俺達が寝入った後に、ひっそりと部屋を抜け出して
影野の所へ忍んで行ったことなんか気付けるはずもなかった。
影野の所でマックスが何を思い、何をしているかなんて想像さえしなかった。


 

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