11



病院に着くとどたばたと影野だけが別室に移動させられた。
マックスも俺も影野のことが気になったけれども、
俺達も結構な怪我をしているとあって、処置室に向かうことを余儀無くされた。
もっとごねると思ったマックスが何も言わないで黙々と処置室に向かうから、俺も黙ってそれに従う。
怪我の処置をしてもらってる間も、マックスは何も言わなかった。
俯いたまま、俺たちとも目を合わさない。

俺たちは各々骨折と診断され、そのまま入院することになった。
俺達が病室に移動しても影野は姿を現さない。

細々とした手続きとか、家族が来たりとか、自分のことで手一杯になっていて、
マックスの家族が来た時になって漸く気付いた。
いつの間にかマックスが病室からいなくなっていたことに。


「俺、心当たりがありますから、探して来ます」

怪我したと連絡を受けて、急いでやってきたんだろうに当の本人が見当たらなくて、マックスの家族は心底心配そうにしていた。
俺が声を掛けると、俺も怪我人だから恐縮してたけど、
心当たりがあるって言葉と、怪我が腕だったことで俺に任してくれた。


たぶんマックスはあそこにいる。
検査だか手術だかしている影野の近く。

そして、たぶんマックスはそこに親に来て欲しくないはず。
だって親なら「どこ行ってたの!?怪我してるのにふらふらと!!」とか言うもんな。
自分を心配しての言葉だとしても、影野を思っての行動を否定されたく無いはず。
少なくとも、俺の知ってるマックスなら、そう思う。
俺は一人で、影野が運ばれた先へと向かった。


影野が治療を受けている部屋の前には、影野の家族がいて、マックスの姿は見えなかった。
でも、絶対この場所の近くにいるはず。

きょろきょろと辺りを探すと、通路から見えないように階段に腰掛けたマックスがいた。
そこは、すぐ影野のいる治療室の様子が伺えるけど、向こうからは見えない場所だった。

「よう」
俺が声を掛けると、マックスが顔を上げる。
その大きな目は、何の光も湛えてなくて、
大きい分だけそれが悲しかった。

「半田」

「お前の家族、心配してたぞ」
俺の名前を呼んだだけで、また俯いてしまったマックスの隣に座って話しかける。

「そ」
自分のことなのに、思ったとおり素っ気無い返事が返ってくる。
だから俺もそれ以上言うことは何も無い。

「・・・影野、どうだ?」
マックスの家族のことよりも、今、一番気になることを訊ねる。

「・・・分かんない」
答えながら、マックスが顔を隠すように体を縮こませる。

「分かんないって、お前、影野の親なら知ってるだろ!?
聞いてないのかよ!?」
俺が思わず大きな声を出すと、マックスは急に顔を上げ、きっと俺を睨む。

「じゃあ、半田は聞ける!?
あんたんちの息子は死にませんか?って!」
俺はマックスの言葉にぎょっとなる。

「しっ!?
っんな、そんな訳ないだろっ!!
あれぐらいで人が死ぬかよ!?」

俺達がしていたのはサッカーで、
たとえ相手が宇宙人だったとしても、サッカーで人が死ぬわけが無い。
俺達だって、怪我したとはいえ、一ヶ月やそこらで全治するような怪我なのだ。
影野だけがそんな事態になる訳がない。

俺がむしろ吃驚してそう言うと、マックスはぐしゃっと顔を歪ませた。

「だって、だって、あいつらはサッカーボールで校舎を壊せるんだよ!?
そんなボールを仁はお腹で受けたんだ。
…仁は馬鹿だっ。
DFだからって体を張って、ボールを防がなくたっていいのにっ」
そう吐き捨てるように言うと、また顔を隠すように体を抱えてしまう。
その言葉は少なからず俺まで不安にさせる。
俺が何も言えずにいると、暫くしてマックスの小さな声が聞こえてくる。

「・・・半田ぁ。
さっきの仁、…凄く冷たかった。
真っ青で、…動かなくて、
…人形みたいだった。
こ、このまま本当に、…う、動かなくなったらって思ったら、
こ、怖くて、怖くて、どうしたらいいか分かんなくってっ・・・」
声には嗚咽が混じっていて、
その言葉の内容はさっきグラウンドで俺が感じた不安と同じだった。

「大丈夫だって。
すぐにでも平気な顔して戻ってくるよ、な!?」
俺が安心させるようにマックスの肩を抱くと、マックスも俺の胸に顔を押し付けてくる。

病院の服は生地が薄くて、服の上からでもマックスの涙が服に染み込むのが分かった。
だからマックスは声を抑えていたのに、すぐ泣いてるって気付いた。
・・・気付いたけど、気付かないふりをした。


俺たちは肩を寄せ合って、影野のいる部屋に動きがあるまでずっとそうしていた。


 

prev next




第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -