10



宇宙人が攻めてきた。




これ、冗談でも、新しいハリウッド映画のストーリーでも無いんだぜ?
本当にあったことで。
しかも俺達は宇宙人と戦っちゃったんだぜ?
笑っちゃうよな。漫画みたいで。

で、漫画や映画と違って、俺たちはその戦いに負けた。
これ以上は無いってぐらいボロ負けした。
俺だけじゃなく、皆が皆、怪我をして、動けなくなった時、学校を壊された。
俺達の学校じゃなかったけれど、俺達の学校と同じように壊されたのはショックだった。

奴らは学校を壊すと興味が無くなったみたいに去っていった。



奴らが去った瞬間、気が抜けたのか影野が前のめりに倒れた。
それはすごく嫌な倒れ方で、ベンチに座ってたのに、痛みでお腹を抱えると支えきれないみたいに力なく前に向かって倒れた。
とさっという人が倒れた割りに小さな音と、
すぐ近くで「仁!」という大きな叫び声が聞こえる。

目の前でマックスが立ち上がる。
俺と同じように怪我をして倒れていたマックスが呻き声を上げながらゆっくりと立ち上がるのが見える。
怪我をした腕を押さえながら、それでも走って影野に近寄る。
その走るスピードは普段の歩きに近いものだったけれど、それでもその時の全速力で走ってた。
その姿を見て、俺も立ち上がる。
今まで感じたことが無いくらいの痛みが肩から腕にかけて走ったけれど、
それでも必死で影野の元に近付く。


「どうしよう半田。
仁が、仁が、すっごく冷たいんだ」

俺が影野の元に辿り着くと、
倒れた影野の頭を膝に乗せ、手を掴んでマックスが俺を見上げてくる。
その大きな目はいつも以上に大きく見開いていて、不安に揺れている。
そんな顔したマックスも、
俺に「どうしよう」なんて訊ねてくるマックスも、その時が初めてで、
マックスの膝の上の影野は顔が真っ青で、ぐったりと動かなくて、
呻き声も凄く小さくて、ほとんど息ばっかりで、俺は堪らなく怖くなる。
影野の影がいつもより薄くて、
このまま消えてしまうんじゃないかって気がして、影野の手に触れる。
それはマックスの言う通り凄く冷たくて、まるで人形の手に触れているみたいで、俺の中の恐怖が加速する。

「影野、影野」
俺は怖くて怖くて、影野を揺する。

コイツは病人の演技が上手いから、今だってただの演技かもしれない。
前だって本職の看護婦さんを騙したくらいだ。
俺なんかこんなことまでしなくたって簡単に騙せるに決まってる。
だから早くいつもみたいに「…半田」って少しはにかんで俺の名前を呼んで欲しい。

「あまり揺するな、半田」
冷静な声が背後からする。
後ろを振り返ると、豪炎寺が来ていて、膝まづいていた。

「ショック症状を起こしているんだ。
…影野、吐き気はあるか?」
そう豪炎寺が訊くと、微かに影野が頷く。

「ただの打撲じゃないかもしれない。
…救急車は呼んだのか?」

「はい!さっき傘美野中の人にお願いしたから、もう来るはずです!」
豪炎寺の問いに、
少林を助けながら大きな声で音無が答える。

その答えを待っていたかの様に、遠くから救急車の音が微かに聞こえてきた。
傘美野中の連中のすすり泣きと、
誰のものとも知れない呻き声に混じって、
遠くから規則正しい機械音が俺達の元へ向かってくるのが聞こえた。



やっと来た救急車に、影野だけじゃなく俺達、マックス、宍戸、少林も乗せられた。
病院へ移動中に影野が何回か吐いて、救急隊の人達が再度病院へ連絡するのを見て、心が騒ぐ。
吐いたものには血が混じっていて、
さっきから豪炎寺の
『ただの打撲じゃないかもしれない』
って言葉が頭をぐるぐる廻る。
ただの打撲じゃなかったら、何なんだ。
その答えを早く知りたいような、知りたくないような複雑な気持ちで、じりじりと病院への道のりを過ごした。


その間マックスは影野の手を握ったまま、微動だにしなかった。
一言も言わず、ただ呻く影野をじいっと見つめていた。


 

prev next




「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -