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というわけで、俺たちは次の土曜の部活の後に三人でゲーセンにやってきた。

まあ、ぶっちゃけ何が『というわけで』だ、このやろーって気分なんだけど、
この前のことは忘れることにした。
というか、この前のこともその前のこともはっきり言って忘れたい。
自分だけでなく、全ての人からあの記憶をデリートしたい。
それぐらい俺のキャラじゃなかったし、特にヨーダは痛かった。
だって財前総理とケイン大統領とどうやってヨーダが絡むって言うんだ。
正しい絡み方を知ってる人がいたら教えて欲しいぐらいだ。

何もできなかった俺に反して、影野は結構ノリノリでマックスと政治ギャグや時事ネタをかまして笑いを取ってた。
しかも、総理と声がそっくりで物真似でもウケてた。
実際マスクを取った時、上気した顔でにこにこしてたし、あれは絶対ハマったな。
現に今日もゲーセンに行こうって言い出したのは影野だ。
自分もあのマスクが欲しいらしい。
もしかしたら俺は影野が脚を踏み外した瞬間を見てしまったのかもしれない。
芸人、否、そこまでいかなくても確実にコスプレイヤーになる道を影野は歩みだした気がする…。


まあ、という訳で今俺達は商店街のゲーセンに来ている。
久しぶりに来たゲーセンは、随分と雰囲気が変わっていた。
特にUFOキャッチャーの中身が。
やっけに生活感溢れる商品が多いし、パーティーグッズも多いし、面白グッズとかばっかになっている。

「UFOキャッチャーってもっと人形とかが多く無かったっけ?」
俺は辺りをきょろきょろしながら、
影野にコツを伝授しているマックスに訊ねる。

「え〜、こんなもんじゃない?
あっ、でもここはサリーさんが仕切ってる商店街だから、そこんところが反映してるのかも」
機械の周りを歩き廻りながら、取りやすいヤツを影野に教えながら答える。

「あ〜、あの人かあ…」
円堂に懐いている稲妻KFCのまこちゃんの母親、サリーさんの顔を思い出す。
確かにあの人の要望が商品内容に如実に反映されている気がする。

「じゃ、お手本見せてあげる」
マックスはそう言うと、ちゃりんちゃりんとお金を機械に入れた。
俺と影野が見守る中、六回のチャンスがある内の二回目で見事景品をゲットする。
一つ目をゲットした後、店員のお姉さんを呼んで商品を移動してもらうと、残りの四回でもう一つ商品をゲットする。

「ちぇっ、あのお姉さん、ボクが簡単に取ったから難易度上げてった」
色違いの二つの景品を俺たちに見せながら、それでも悔しそうにマックスが言う。
実は三個取る気だったらしい。

「ま、いっか」
そう言って俺達に一つずつ取った景品を差し出す。
差し出されたのは箱に入った大きなタオル。
バスタオルサイズの何かのゲームの動物のキャラクターをモチーフにした可愛らしいタオルだった。

「えーっと…これ、くれんの?」
影野と顔を見合わせてから、戸惑った声でマックスに訊ねる。

「要らない?」
答えるマックスの声は至って普通で、俺達の戸惑いなんて気付いてないみたいだった。


だっていくら景品とはいえ、
理由も無く貰うのは気が引ける。


「…あんがと」
俺が受け取ると、影野も続いて手を伸ばす。


こんなの、
こんなの照れるだろ、普通…。


さらっと景品を取ったさっきのマックスは悔しいけど格好良くて、
こんな風にあっさりと景品を渡すところは、なんだかデート中のカップルみたいだし、
しかも渡されたタオルはなんか女の子っぽい柄だし、
どうしたって変に意識してしまう。
なんか女の子になったみたいで恥ずかしい。

ちらりと見ると影野の顔も赤くて、やっぱり照れるのが普通なんだって思う。

物を貰っておいて、こんな風に考えるのはなんだけど、
照れもせず男の友達相手にこんなことしてくるマックスにちょっとだけ腹が立つ。
かっこいいマックスが悔しくて、気付いたらこんなことを言っていた。

「うっし、んじゃ次はこれで俺と勝負だ!
物、貰っても手加減はしないからな!」
そう言って指差したのはバスケットのゴールのついたゲーム機。
あんまりゲーセンに来ない俺が、勝負できそうな数少ない体力系のゲームだった。


 

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