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「あ”〜〜、菅田の奴ムカつく〜」

それはもう恒例となった、マックス・影野との弁当タイムの最中のこと。
苺オレをずずず〜っと音を立てて一気に飲んだマックスがいきなり大きな声で叫ぶ。


「何かあったのか?」
触らぬ神になんとやら。
俺は隣に座る影野に声を潜めて訊ねる。

「帽子のことで注意されたんだって」
影野が顔を寄せてひそひそ答える。

マックスは俺たちの密談の内容なんてお見通しみたいで、
途端にべらべらと菅田先生の文句を並べ立てだした。


「大体さぁ、ボクよりもっと変な格好してる奴なんてこの学校に腐る程いんじゃん。
そいつら怒ればいいのに、ボクだけ会う度ねちねちと説教かますしさぁ。
あいつボクのこと嫌いなんじゃないの!?
そもそもこの帽子の良さが分からないなんて美的センスゼロ!
つーかマイナス!
いくらおっさんだからってこれはヤバいでしょ!?
この帽子があることによってボクのワイルドな魅力が中和されて、
キュートでミステリアスな雰囲気が醸し出されるってゆーのにさぁ」

そ、そうかぁ?
俺はマックスの帽子の魅力については大きく疑問を抱いたが、
蜂の巣を突くような真似はしたくないので口には出さない。

マックスはそこまで言うとまた苺オレのストローを咥える。
でも、もう空だったみたいで苛立ったようにすぐにぐしゃっと握り潰す。
そして何を思ったのか俺のコーヒー牛乳に手を伸ばす。


「ちょっ、それ俺のだぞ!」
俺が自分のコーヒー牛乳を死守する為に腰を浮かした時にはもう、俺の可愛いコーヒー牛乳ちゃんはマックスに捕らわれてしまっていた。
マックスは俺に向かってべーっと舌を出すと、音を立てて一気に俺のコーヒー牛乳を飲み干した。

「あー、やっぱり苺オレの方が美味しい」
俺のコーヒー牛乳を全部飲んだ後、マックスがそう言い捨てる。

「じゃあ飲むな!!」

まだパンが一つ残ってるっていうのに、飲み物が無くなってしまった俺は、激しく抗議の声を上げる。
いくらムカついているからって、こんな横暴が許されてたまるか!

「あ、ごめん。
ボクの前にあったから間違えちゃった」

「嘘付け!
ちゃんと俺の前にあったのに、『間違えちゃった(てへ』じゃねぇよおおぉ」
俺はマックスの胸倉を掴んで思いっきり揺する。

「半田、ウザい」
でも、マックスが全然悪びれずそんなことを言うから殴りたくなる。
俺が片手を握り締めた途端、見かねた影野が割って入る。

「…マックス」
俺の手を押さえて一言だけそう言う。
でも、それだけでマックスは少し下唇を突き出した拗ねた顔で横を向く。
その姿を見守った後、影野は俺の方を向く。

「ごめんね。
マックスも反省してるみたいだから許してあげて」

反省!?あれが!?

一言も言わないで横を向くのが影野にとっては謝っていることになるらしい。
明らかにマックスを甘やかしている影野だけど、
困ったように俺のお茶、まだ開けてないから飲む?とか言ったり、
マックスの為にポケットから苺ミルクのチュッパを取り出したりと、色々甲斐甲斐しく世話をしている影野を見ていると、怒りが殺がれる。


マックスは不機嫌そうに横を向いていたけれど、影野がチュッパを渡すとちらりと俺の方を見る。

お、本当に反省してんのか!?

普段傍若無人で気分屋のマックスのその俺を少し気にした態度は、
なんだか動物の気持ちが分かった時みたいな気分にさせた。
少し影野の気持ちが分かった俺は、マックスに大きくにっと笑ってみせる。
そんな俺から目を逸らしたマックスがぼそりと言う。

「半田、キモい」
それだけ言うとチュッパを自分の口に突っ込む。


前言撤回!
やっぱり影野みたいにコイツを甘やかすのは絶対良くない!!


 

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