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病院の売店は影野の言うとおり、狭いながらも結構充実してて、
三人で並んで物色する。

「でもさー、お前ら慣れてたな。
ここ結構来てんの?」

俺は惣菜パンを選びながら、二人に声を掛ける。

「ほぼ、毎日」

お菓子コーナーを見ていた影野が苦笑しながら顔を上げる。

「でも、声掛けられたのは初めてだよ。
余程、半田が不審人物に見えたんじゃない?」

アイスコーナーにいたマックスがひょっこり顔だけこっちに向ける。

帽子を目深に被ってて目が異様に大きく猫っぽいマックスと、
顔のほとんどを髪が覆い隠している影野と、俺。
どう考えても、この三人のうちで俺が一番一般人に見えるっつーの。
でも、病院にいると一般的な中学生の俺より影野の方がしっくりくる。


「松野だって俺と一緒だから注意されないくせに」

「ボクはいーの!」
影野がそう呟くと、マックスが首を引っ込める。
マックスがアイスコーナーに引っ込んだ途端、影野が俺に苦笑交じりで話しかけてくる。


「俺が病人の演技一番上手いからって、松野にいつも付き合わされてるんだ」

「へ〜」
そう言う影野は手の焼けるやんちゃ坊主を抱えたお母さんみたいだった。


どでかマヨウィンナーを持った俺と、たけのこの里を持った影野でドリンクコーナーに移動する。
俺が微炭酸のレモンとソーダで悩んでいると、影野は迷うことなくお茶を手にする。

「なあ、なんでお前マックスのこと松野って呼ぶんだ?
あいつマックスって呼んでって言ってたじゃん」

レモンの方に決めた俺はおまけのちゃちいクリップの柄をチェックしながら、
俺のことを待っている影野に尋ねる。
でも全種類チェックして、黄色と青のを奥のほうから取り出し終わっても、影野は何も言ってこなかった。

「こだわり?」
俺が立ち上がって訊くと、ぶんぶんと首を横に振る。

「じゃあ、マックスって呼べばいいじゃん。
お前ら仲良いんだからさ」
俺がそう言っても、影野は困ったように何も言わない。

「なー、いいよな?」
まだアイスコーナーにいるマックスに声を掛ける。
でも、声を掛けてもこちらを向かない。

「…いいよ」
背中を向けたまま、短くそう言う。


それはなんだかマックスらしくなくて、
さっきから何も言わない影野と相まってなんだか変な空気になる。
俺は変なのと思いながらも、さして気にすることもなく影野の背中を叩く。

「いいってさ」
影野は少し耳を赤くして頷く。
友達をあだ名で呼ぶだけで照れる影野が可笑しかった。


病院から出た途端に、俺達は買ったばかりの食べ物を開けて、歩きながら行儀悪く食べだす。

「お前ら、そんなんじゃ駄菓子屋行くのと変わらないじゃん」

見るとマックスはアイスとめちゃくちゃ甘そうなチョコバー、
影野はたけのこの里とお茶しか買ってなかった。
俺が笑ってそう指摘すると、またさっきみたいな変な空気に一瞬なる。


「いーの!このアイス、こっちにしか売ってないんだから」
でも、マックスがイーっと歯を見せて言うといつもの空気にあっという間に戻る。


「折角半田にも一つあげようと思ってたのにな〜。
やっぱ止ーめた」
マックスがピノにスティックを刺しながら言う。

「えっ!?一個くれんの?」

俺が吃驚して訊ねると、マックスがにやりと笑ってそのままピノの刺さったスティックを俺の方へ向ける。


「はい、ご褒美」
俺はマックスの気が変わらないうちに急いでピノを口に入れる。

「ひゃんのごほーび(何のご褒美)?」
俺は一口で食べるには少し大きいアイスを頬張りながら訊ねる。

「ん?…半田には内緒」
もう一つピノを刺しながら少し怒ったみたいな声で言う。

「…仁も。
あーん」
やっぱり少し怒った声でそう言うと、今度は影野にも一個ピノを差し出す。

「ん。…ありがと」
照れたように影野はそう言うと、
少しの間、躊躇してから凄いスピードでマックスの差し出したスティックからアイスを口に入れた。


「あー、影野のピノ、ハートだったぞ!
ずりぃ、俺もハートが良かった!」

マックスが影野に差し出していたピノはたまに入っているハート型のピノだった。
影野が躊躇している間に目ざとくそれを見つけた俺は、
マックスに抗議の声を上げる。
どうせだったら俺だって珍しいハート型の方がいいに決まってる。

「うっさい、馬鹿。
やっぱ半田にはあげるんじゃ無かった」
今度は少しじゃなくばっちり怒った声でそう言う。


俺はそんなマックスに贔屓だとかもう一個くれとか、
文句ぶうぶう言ってたから気付かなかった。
俺の隣で影野が耳を真っ赤にしながら、小さなアイスを途轍もなくゆっくりと食べていることなんて。


 

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