三人1



「おーい、お前らどこ行くんだよ?」

昼休みに部室に置きっぱなしだった、古語辞典を取りに来てみると、
部室から校舎とは逆方向に向かう新しくチームメイトになった二人の姿が見えた。

俺の声に気付くと二人同時に振り向く。

「半田」

「・・・」

マックスと影野だ。


二年になってから運動部に入る変わり者二人。
しかも今だ廃部と隣合わせのサッカー部なんかに。
まあ、二年だというのに勧誘したのは円堂なんだけど。


「そっち校舎と逆じゃん。
二人でどこ行くんだよ?」

まだ入部したてで、あまり親しく話したことのないこの二人は、
あまり俺の周りにはいないタイプだった。

俺が近付いて訊ねると松野がにやりと笑う。

校則違反の帽子をいっつも被っているこいつは、
自己紹介の時に自分から「マックスって呼んで」って言い出す、一風変わった自信家。
今の笑い方だって普通に笑っただけなんだろうけど、なんだかからかわれてる気がする。
目がまん丸で口だけで笑ってるように見えるからか?
それとも猫っぽいからか?


「お昼足り無かったから買出し。半田も行く?」

そんな俺の危惧を余所に、マックスは部活に勤しむ男子中学生にとっては極普通のことを言ってきた。
勿論俺も最近のハードな部活動で、今までの弁当箱では足りなくなっていたから、
一も二も無くその言葉に飛びつく。

「行く」

俺がそう言うと、二人はやっぱり校舎とは逆方向に向かおうとする。
購買なら校舎の中だし、
駄菓子屋なら体育館裏からの方が近いし、
外のコンビニに行くなら正門は向こう側だ。


「どこ行くんだよ?こっちは病院しかないだろ?」

俺が戸惑って訊ねると、またマックスがにやりと笑う。
今度は俺の思い違いなんかじゃなく明らかに俺のことからかってる。


「だって病院行くんだもん」

「はあ?」

「購買なんか今の時間行っても何にも無いし、
駄菓子もお腹膨れないしね。
だからー、びょーいん」

そう人を馬鹿にしたように言うマックスがムカつくから、未だになんで病院に行くかよく分からないのにその理由を訊く気になれない。
思わず握りこぶしをプルプルさせていると、それまで一っ言も発しなかった影野が穏やかに笑いながら言う。

影野は、髪で顔を隠していて、どことなく人目を避けている雰囲気さえあるのに、
目立ちたいと言う理由でサッカー部に入った、少し矛盾している人物。
草食系っていうか、
まんま日陰の植物みたいな静かで穏やかな感じのイメージの奴だった。


「病院の売店だよ。
結構品揃えいいし、穴場なんだ」

「あれ、半田分かんないのに着いて来てたの?
主体性なーい」

そんな攻撃性のない奴と、こんなどSっぽいマックスが何故だか気が合うらしいんだから驚きだ。

ムカっときた俺が密かに蹴飛ばしてやろうとマックスの背後に忍びよると、急にマックスが振り返る。

「今、蹴ろうとしてたでしょ?
半田ってほーんと、やること普通で分かりやすーい」

けらけら笑うマックスが心底ムカつく。
でもそんなこと言われたら今更蹴ることもできなくて、
俺は早足で病院に向かう。
後ろからマックスが
「そんな急がない方がいいよ」
なーんて半笑いで言ってるけど、そんなの知るか!


俺が二人を置いてスタスタと病院に入ると、途端に看護婦さんに止められてしまう。

「君、中学生だよね。
こんな時間に何やってるの?」

不審そうな表情に、改めて自分が制服で真昼間に学校外をうろついていたことに気付く。
全くこんな事態を想像していなかった俺は、勿論上手い言い訳なんて用意していない。
困って俯いた俺の背後から、マックスの声が響く。

「すみません、友人が急に気分が悪いって…」

振り返ると、マックスといつもより影の多い影野がいた。

「そっ、そーなんです!こいつが気持ち悪いって、急にっ」

俺は影野の肩を組み、慌てて二人の演技に乗っかる。
看護婦さんは最後まで俺のことは不審そうに見てたけど、
影野の堂に入った病気の演技に納得して、俺達を解放してくれた。

「だから急がない方がいいよって言ったのに」

「うっせ」

看護婦さんが行ってしまった途端、マックスが馬鹿にしたように俺のわき腹を小突く。
でも、俺を助けてくれたのは確かだ。

「…さんきゅ」

慣れた感じで売店に向かう二人の後ろからそう言うと、
マックスが小さく吹き出してから振り向く。

「じゃあ、助けてあげたお礼にダッツ奢って」

「おまっ、調子にのんな!」
俺達二人がぎゃあぎゃあ言い合う隣で、影野がくすくす笑う。



実際に話してみると、二人はキャラが濃い(否、一人は薄すぎるのか?)だけで、
変でも、嫌な奴(否、一人は充分嫌な奴か?)でも無かった。

俺はもうこの時点でこの変人二人のことが結構気にいっていた。
少なくとも、今後の部活が楽しくなりそうだって予感がするぐらいには。


 

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