18*



指だけだと怖くないし、痛くもなくて、
というか結構、うん、まあその…良くて。
周り撫でられるとぞわりってするし、
中の指をキュウってすると、俺の中に入ってるって分かってゾクゾクする。

一之瀬は俺の真似して言っただけなのに、
俺は簡単にあんあん言って、しかも一之瀬より早く大きくしていた。
だって自分以外に触られると、勝手に声出ちゃうんだもん、しょーが無いじゃん。


俺が盛り上がると、一之瀬も煽られたみたいで、すぐ挿入れられる状態になる。

「一之瀬」

俺が見上げると、分かってるって顔で頷いてくれる。

   どくん。

心臓が音を立てる。

もう一度一之瀬が自分にクリームを付け直すのが目に入る。

   どくん。

ああ、しちゃうんだな。
なんだか急に実感が涌いてくる。

なんかドキドキしちゃって落ち着かなくて部室を見回す。

さっき探した時にちゃんと閉めて無かった俺の半開きのロッカー。
まだはっきり残っているホワイトボードの風丸の字。
普段だったら冬しか使わないハンドクリーム。
床に散らばってる俺達の服。
タイヤに引っかかってる俺のスパイク。

・・・そして笑みを浮かべた一之瀬。

    どくん。

今までで一番大きく心臓が跳ねる。

「半田」
今度は俺が分かってるって顔で頷く。

ぐっと当てられた一之瀬のソレ。
今日何度となく宛がわれて、慣れてしまったその感触もたぶんこれが最後だ。


「手、握ってて、いい?」
俺の呟きに声も無く握られた手。
その握られた手を見てから、俺は目を瞑った。










一之瀬が俺の横に倒れこんだ時、俺達は二人とも息絶え絶えって感じだった。

「終わったな」

「…ああ、やっと終わった」

二人して天井見上げて、洩らした同じような本音は、
初めてヤって、し終わったばっかの二人の会話にしては、ぶっちゃけあんまりにもあんまりなものだった。


「ぷっ」
そんな色気の無い残念な俺達に、俺は思わず噴き出してしまう。
俺が笑い出すと、一之瀬も笑いだす。

「俺っ、俺っ、セックスってもっと簡単なものだと思ってた〜」

「俺も〜」

「あー、疲れたぁ!」

「本当、喉渇いて死にそう」
体中を支配する気だるさに、起き上がれないままテーブルに寝転んで、
二人で色気の無い本音をどんどん口にする。

「ハンドクリームもほとんど使っちゃったけどバレないかな?」

「どうせ冬まで使わないから大丈夫。
それより俺が付けたキスマの方がバレるかも」
一之瀬はそう言うと起き上がり、
ハンドクリームを仕舞いながら絆創膏を持ってきてくれる。


「あー、遊びでヤる奴とかマジ信じられないよ。
こんな面倒くさいもん、本当に好きな奴とでなきゃ出来ないよな〜」
俺は自分では場所の分からないキスマークに絆創膏を張って貰いながら、そう呟く。


そう、その一言だって話の流れ的にはそれまでのじゃれ合いの一環で深い意味の無い一言だった。
でも、俺がそう言った途端、一之瀬は動きを止めた。
そして綺麗に絆創膏を貼れたのを確認すると、首から俺の顔へと視線を上げる。

「半田」

「な、何?」

急に真剣な顔するから、俺も起き上がって一之瀬と向かい合う。


「今日あったこと全部忘れて」


え?


「今日、俺と会ったこと、俺が話したこと、
…ここで俺としたこと、
全部忘れて欲しい」


な、んだよ…それ…。


「俺が言った全ての事はまだ皆には内緒にして欲しい。
皆との最後の試合は真剣勝負にしたいから」

一之瀬の言葉に俺は頷く。

でも、本当に説明して欲しいのはそれじゃない。
俺は一之瀬の言葉の続きを待つ。
俺が睨むように一之瀬を見つめ続けていると、一之瀬がついっと目を逸らす。


「半田はさ、多分俺のこと好きなんかじゃ無いよ。
憧れと、それと俺に同情してるだけ。
だから今日の事は忘れて、初めては可愛い女の子と…」

ドン!

俺は一之瀬の言葉を遮る為に、テーブルを思いっきり叩く。

「一之瀬は!
そう言う一之瀬は俺の事なんとも思ってないのかよ!?
俺、お前も俺と同じ気持ちだと思ったから、…だからっ!」

お互いはっきりと言葉にするのを避けていたのは、今日が最後だって二人とも知ってるからだと思ってた。
ただそれだけで、俺は気持ちは通じ合ってるって思ってた。
それが違ってたなんて俺は信じない。
絶対俺の錯覚なんかじゃない!


「・・・」
でも、一之瀬は何も言わずに俺に背を向ける。


「俺、お前が今日のこと全部忘れたいっていうんなら、俺も忘れる。
俺とのこと全部忘れたいって思ってるような酷い奴のことなんて覚えていたくないし。

でも違うんだったら、違うんだとしたら…俺絶対忘れない!
陸上部のグラウンドに転がってたサッカーボールも、
部室のテーブルの冷たさも、
一之瀬が最後まで握っててくれた手も、全部忘れない!
お前と初めて会った時から、好きだったこと絶対忘れないから!」

俺はついに気持ちを言葉にしてしまった。
それでも何も言わない一之瀬の背中に、俺は自分の体をくっつけた。
起き上がる時、下肢に雷光のような痛みが走ったけど、
そんなものは時がくれば癒える。
今はそれよりも大事なことがある。


今、俺の恋がどんな結末を迎えるかが決まる。



俺がしがみ付いた一之瀬の背中は、まだ汗ばんでいて、一之瀬の匂いがいつもより強くした。
その匂いも、俺の手にぽつりと落ちてきた涙の暖かさも、
俺は忘れないと心の底から思う。



そして、俺の告白の返事に
「またいつか一緒にサッカーしよう」
って呟いた一之瀬との約束も。


 

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