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連れてこられたのは部室で、
中に入った途端一之瀬は俺のことを乱暴に壁に押し付ける。

「ねえ半田。
俺のこと好き?」

え?

急にそんなことを聞かれて、胸が跳ねる。
走ってきたからって言い訳が通じない程、胸が苦しい。

「き、…嫌いじゃない」

どくどくと心臓から首を伝わって耳の後ろに血が流れる音がする。

たぶん今、俺の顔、赤い。

俺はその顔を隠すように一之瀬から顔を背ける。

「じゃあ、サッカーの出来ない俺は?」

顔を背けたせいで露になった首に、一之瀬が顔を寄せる。

な、何?

一之瀬の言っている言葉が、
一之瀬のしている行動が、
何を意味するのか分からなくって、返事が出来ない。


「んっ」
返事の出来ないまま、
首にぞくりとする感触が走って、体が跳ねる。
誰かがくすくす笑ってる。

「半田は俺がサッカーしてるところが大好きなんだもんね。
じゃあさ、サッカーしてない俺は価値が無い?」

「はっ、…な、に言っ?」
びくり。
また体が跳ねる。
今度は首にきゅっと痛みが走った。


俺の首のところには一之瀬の頭があって何も見えない。
じゃあ、この首を走る痛みも甘い痺れも一之瀬が俺に与えてるのか?
でも、なんで?
何の為に?

混乱している俺にまた誰かのくすくす笑う声が聞こえてくる。


「あーぁ、半田可哀想。
こんなところにこんなの付いてたら、すぐバレちゃうね」

一之瀬の顔が遠退いていく。

「ほら分かる?ここ。…キスマークだよ」

一之瀬の指の先には俺の首。
さっき痛みが走った場所を、一之瀬の指がつうっとなぞる。

「ああ、半田には見えないか。
初めて付けたけど綺麗に紅くなってるから大丈夫。
これで皆にも気付いて貰えるよ」

一之瀬の口が緩やかに弧を描く。
さっきから笑ってたのは、…一之瀬?


「半田が俺の慰み者になったって」


…え?俺がなんだって?

一之瀬はくすくす笑いながら、俺のジャージのジッパーを下げていく。

「半田は気付いてたんでしょ?俺がどこか変だって」

Tシャツが捲くられ、直に肌に触れられる。
 …怖いのに、一之瀬の言葉が俺を縛っていく。

「俺さ、アメリカのプロチームのユースに誘われたんだ。
『今度のFFIでの本戦出場を手土産に入団しませんか?』って」

一之瀬の手が何かを探すように蠢く。
 …俺は一之瀬の一挙手一動が気になって目が離せない。

「FFIってね今度開かれる少年サッカーの世界大会。
日本はまだ正式に参加が決定してないから今度のアメリカ行きは皆に内緒にしてくれって響木監督に言われてたんだ」

どくんどくんと脈打つ心臓へと一之瀬の手が近づいていく。
 …でも一之瀬はさっきから一度たりとも俺を見ない。

「アメリカに行く前に監督に言われたよ。
『お前ならアメリカでも日本でも代表に選ばれる。だから後悔しないように選べ』ってね。
…監督も気付いてたのかな?」

一之瀬の手が俺の心臓の上で止まる。
 …一之瀬は少し俯いて口の端を歪めてる。

「プロチームの人にも言われた。
『あなたならFFIでも必ず注目されるでしょう』って。
だから他のチームからも誘われる前に、仮契約したいって。
入団前の精密検査を受けて欲しいって」

そしてゆっくりと焦らすように心臓の上からその隣へとずれていく。
 …怖い、いやだ、いやだ。

俺は恐怖で目を瞑った。
両手で耳を押さえた。

もう俺を見ない一之瀬も、
一之瀬の口から語られる言葉も、
見たくなかったし聞きたくもなかった。


「半田、俺、アメリカに戻る。
円堂達と戦う為に、俺はアメリカのチームに入る。
…俺の最後のサッカーになるかも知れないから」



 

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