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「おっ、来たな。新キャプテン!」
立向居は着いた途端手荒い歓迎を受ける。
「うわっ!止めてくださいよ〜」
夏の大会を最後に引退した先輩達が、久々のグラウンドとあってか立向居の頭を代わる代わるかき混ぜては思い思いにボールを蹴ってくる。
いくら立向居が不世出のGKとは言っても、頭を拘束されて一気に何個ものボールが向かってきては受け止めることなど出来ない。
ぼこぼことボールが当たり、髪の毛はぐちゃぐちゃだ。
「もうっ、俺で遊ぶのは止めて下さい!」
「ははっ、悪かったな」
立向居の怒りも笑ってやりすごして、前キャプテンの戸田が肩を叩く。
久しぶりに部活に参加した先輩達にとってはこの4月で最上級生になる立向居もいつまでも可愛い後輩でしかない。
それでなくても自分たちの代で何年かぶりに全国大会に出場出来たのは、
日本代表に選ばれたほどのGKに成長した立向居の力が大きい。
戸田を始めとする先輩連中は、その立向居がGKを志した瞬間から共に練習してたから感慨も大きいし、
それだけ立向居が可愛くて仕方ない。
「あれ!?お前、もしかしてアレ、綱海さんか!?」
おふざけが一段落して筑紫が漸く綱海の存在に気付く。
その途端弛んだ雰囲気が一気に引き締まる。
この場にいる全員が代表選手である綱海の事は知っていたし、
度々立向居の口からもその名前が出ていた。
「あー、わりっ!折角の日なのに邪魔しちまって…」
綱海がすまないって顔で謝ると戸田は佇まいを整える。
「いえっ!そんなことないです!
いつも立向居がお世話になってるみたいで、いつかちゃんとご挨拶したいって思ってたんです。
本当にいつもありがとうございます!」
そう言って戸田は綱海に頭を下げる。
――あ、あれ?
それまで綱海の前で先輩に子供扱いされていたのを照れくさく感じていた立向居は、
その瞬間綱海にちょっとした違和感を感じた。
――なんだか綱海さんらしくない…?
それは本当に些細な違和感。
ただ綱海が頭を下げた戸田に一瞬躊躇したってだけの。
急に初対面の相手に頭を下げられたら戸惑う人は沢山いるかもしれない。
でも、あの綱海が一瞬でも躊躇するなんて…。
「いいって、いいって!
そんな風に頭下げんなって!
困った時はお互い様だっての。なあ立向居?」
「えっ、あっ、はい!」
困惑して思案の最中に、急に話を振られて思わず返事をしてしまう。
だが、話の流れを思い出し慌てて否定する。
「やっ、違います!
俺、お世話になりっぱなしです!!」
立向居がそう言うと部員は一気にやっぱりなと笑いだす。
笑われてしまった立向居は真っ赤になっておたおたしてしまう。
だから気付かなかった。
綱海がそんな立向居に綱海らしくない苦い笑いを浮かべて見ていたことに。
そして練習中にも度々そんな風に綱海が時折顔を歪ませることは続いた。
綱海自身さえ戸惑う程、その感情は綱海自身にもどうにも出来ないものだったから。
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