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まだ外は暗い時間なのに、綱海は目覚ましも掛けずにもぞもぞと起きだす。
隣にいる立向居の事を気遣い、音を立てずそーっと、そーっとベッドから出て行く。
ベッドから出て振り返ると、先ほどと変わらない格好で寝ている立向居がいる。
そのあどけない寝顔が可愛くって堪らない。


「行ってくっかんな」

起こさないように小さく小さく呟いて、ちゅっとまだ幼さの残る頬に唇を落とす。
唇が触れた瞬間、立向居が小さく身じろぐ。

「やっべぇ」

起きそうな立向居に肝を冷やす。
こんな早い時間にいつも人一倍頑張っている立向居を起こしてしまうのは本意では無い。


――本当はもうちょっとチュウしたかったんだけどな。

残念だけどしょーがねぇと、足音を潜ませながらドアへ向かう。

「また後でな」

綱海は最後にそう残して部屋を出ていった。



綱海が部屋のドアを閉めた音と同時に立向居は起き上がる。

「綱海さん…」

綱海の唇が触れた所を押さえて呟く。


昨日はほとんど寝れなかった。

一昨日は居もしない「赤ちゃん」に嫉妬して。
昨日は未来の「綱海さんの奥さん」に嫉妬して。
もう本当、自分でも嫌になる。


自分の「しっぽ」に手を遣る。
もうそこには「しっぽ」なんてどこにもなくて、誰にでもある尾てい骨のでこぼこぐらいしか無かった。


――これ、綱海さんが見たらどう思うだろう…。


一昨日は「しっぽ」が無くなるのが嬉しかった。
でも今は焦燥感しか感じない。

俺の中にやっぱり赤ちゃんなんていないって綱海さんが気付いたらどうしよう。
俺の中には凄い小さな海さえ無いって綱海さんが気付いたらどうしよう。


そしたら、そうしたら…。
きっと海が大好きなあの人は他の海を探しに行ってしまう。
いつもみたいに俺を置いて行ってしまう。


・・・嫌だ。

それだけはどうしても嫌だ。
こんなにこんなに好きなのに。
俺の中はあの人への想いでいっぱいなのに。
自由なあの人をどうしても自分に繋ぎ止めておきたい。
それには、それには・・・。


――魔法使いにお願いするしかない。


立向居は急いで服を着替えだした。
もう少ししたら、浜辺で円堂さんがタイヤ特訓を始める。
そうしたらあの人も、それに合わせてランニングを始めるはずだ。
その時を狙って声を掛けよう。
それ以外の時間だと綱海さんにバレてしまう。
早くしないと俺に海なんて無いって綱海さんにバレてしまう。
チャンスは綱海さんが海に行っている今しかない。


立向居は何かに急かされるように、部屋を飛び出した。



 

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