5



「あー、もう大分腫れも引いてる」

少しだけ上着とズボンをずらし「しっぽ」を手鏡で確認する。
服を元通りにすれば、「しっぽ」なんてどこにあるか分からないぐらいだ。


――良かった、これで綱海さんも元通りだ。


昨日の夜の初めてのおねだりは少しの成功と多くの失敗で終わった。

あの後、抱えていた手に何回も口付けしていたら本当に我慢できなくなってきて、気付いたら綱海の指を銜えていた。
唇に触れる綱海の指の感触が気持ちよくって。
制止しない綱海をいいことに思う存分指を堪能していたら急に押し倒された。


そこにいたのは見慣れた綱海。
嬉しくて嬉しくていつもより乱れてしまったのに、その時になると急に綱海が与えてくれる行為が荒っぽいものから優しいものへと変わってしまった。

奥にいる「赤ちゃん」の為の動き…。

そう思うと繋がっているのに凄く遠く感じた。

必死に自分から動こうとしても押さえ付けられてしまう。
激しい動きもないから、やけに丹念に自分の中を穿ってくるし時間も長い。
最後は意思に反していつもよりトロトロにされた自分を残して「またな」って自分の部屋に戻っていた。


――もう二度とあんなのは御免だ。


もう二度とあんな嫉妬で苦しくて堪らない行為なんてしたくない。
この昨日より小さくなった「しっぽ」を見れば綱海もきっと目を覚ますはず。

・・・そう思っていた。


でも、実際は違った。
小さくなった瘤を触らせても
「昨日と変わらねぇ」
って言うばかりで態度を変えることは無かった。

何度「ただの瘤だ」って言っても、
何度「赤ちゃんなんて出来ない」って言っても、
「そんなこと言うなよ。俺は諦めねぇ」
と、そればかり。
もう自分の方が疲れてしまった。


今も夜にやって来た綱海が自分の腰の「しっぽ」を愛おしそうに撫でているのを、
為すがままにしている。


「綱海さんって本当に子供好きなんですね」

部屋で寝転んで、「しっぽ」を撫でている綱海に声を掛ける。

「おぉ、好きだぜ!
大きい目をきっらきらさせてよ、話しかけてくるのとかめちゃくちゃ可愛いだろ?」

自分のウンザリした声に気付かず、声を弾ませて返事が返ってくる。

「・・・」

「女の人はすげぇよな〜、子供産めんだもんよ。
俺には絶対できねぇ事だから、尊敬する」

無言のままの自分に、綱海が「しっぽ」を優しく撫でたまま語りかけてくる。


「子供を産めるってことはよ、体ん中に海があるってことだろ?
あんな凄ぇもんを体ん中に抱えてるってどんな気分なんだろうな」

「…海?」

綱海の口から聞きなれたいつものフレーズが出てきて、思わず聞き返す。


「おう、母なる海って言うだろ?
赤ちゃんは母親の中の海の中で丸くなって外に出るのを待ってんだ」

寝転んだまま振り返ると、見たこともない程穏やかに微笑む綱海がいる。
何だか見ちゃいけない気分になって、立向居はすぐ元の体勢に戻った。


「立向居、お前ん中にも、ちっちゃい海があるんだぜ?
ここによ、俺達の赤ちゃんを守るちっちゃい海がよ」

もう一度そこに触れられる指。
その指は凄く優しくて、労わるようで。
…すごく惨めになる。


すぐ元の体勢に戻ってて、良かった。
こんな顔、綱海さんに見られたら嫌われていた…。
今、自分は凄く酷い顔をしているはず。
嫉妬と自己嫌悪と、そして焦燥感。
それらがごちゃ混ぜになった醜い顔をしているに決まっている。


綱海さんは、海が好きで、子供が好きで。
自分の「しっぽ」の中にあるのは海なんかじゃなくて、汚らしい膿。
綱海さんが好きなものなんて少しも入っていない。
そして入ることは未来永劫あり得ない。


綱海さんは、海が好きで、子供が好きで。
じゃあじゃあ、今は俺の隣にいても、いつかはそのどちらも与えることが出来る方へ行ってしまうんじゃないか…。
一度そう思ってしまうと、その考えはいとも簡単に立向居を絡めとってしまう。


綱海さんは格好良くって、運動神経が良くって、優しいし、さっぱりしてて男らしい。
女の人にモテない訳が無い。
こんなちっぽけで傷だらけで…子供も産めない自分より、どんな子だって子供が産めて体の中に海がある女の子の方が余程綱海さんには相応しい。

・・・そう、思えた。


その日、初めて立向居の部屋に綱海が泊まった。
ずっと、ずっと望んでいたことだったのに、イヤラシイ事を全然してこない綱海は凄く遠くて、少しも嬉しく感じる事はなかった。



 

prev next



「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -