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練習に行こうとすると、人から見えない物陰で抱きしめられて

「聞き入れちゃくれねぇだろうが、一応言っとく。
…無茶しねぇでくれ」

なんて熱っぽく囁かれる。


練習で激しいシュートに吹き飛ばされれば

「大丈夫か!?怪我してねぇか?」

なんてどれだけ遠くにいてもすぐ駆けつけてくれる。


今も夕食が終わって部屋で二人きりなのにイヤラシイこともせず、怪我の有無をチェックして、塗り薬を塗ってしまうと、立向居にちゃんと服を着せてしまう。
それどころか、ベッドの上で二人並んで腰掛けているだけだ。
しかも肩を抱かれながら。


・・・何、これ。

時折撫でられる頭、繋がれる手。
そしてすぐ横には穏やかな顔で自分を見つめる綱海。


・・・誰、これ。

いつもと大違いの今の状況に立向居は、はっきり言って大混乱中だ。


今日は朝から全てが違った。
全ての綱海の行動がいつもの三倍くらい糖度が高い。

自分が知っている綱海は、
海が何よりも好きで、
自分のGKの練習を心配したことなんて一度もなくて、
さっぱりしててこんな甘い雰囲気なんて醸し出さないし、
それに何より二人っきりになったらいつだってすぐエロいことばっかりして、
エッチなことが終わってしまうと「またな」ってすぐ帰ってしまう、
そんな、そんな人だったのに。


ちらりとすぐ横の綱海を見る。

「ん?」

「な、何でも無いです…」

優しく微笑まれて、慌てて目を逸らす。

「なんだ変な立向居だな」

ははっと笑って立向居のほっぺを突く。
まるで一昔前の少女マンガのような甘ったるさだ。

――へ、変なのは綱海さんの方だ。


こんな綱海さん、…綱海さんじゃない。


こんな俺にべったりで、
俺の心配ばっかりして、
俺のことしか考えていない綱海さんなんて…。

・・・もう、どうしていいか分からない。


立向居はさっきから心臓がバクバクしっぱなしだった。
どれだけ頭で今の綱海がおかしいと否定しても、心は慣れない甘い雰囲気に早鐘のように高鳴っている。
いつももっと凄いことをしているのに、さっきから繋がれた手が熱くて仕方ない。
いつももっと乱れた姿を見ているのに、さっきから目を見ただけで呼吸が乱れて苦しい。

・・・もう、どうにかなってしまいそうだ。


「あ、あのっ、…今日はしないんですか?」

どうしていいか分からなくって、立向居は自分から大胆な事を言ってしまう。

「おいおい、そんな可愛い顔で煽んなって。
これでも必死で我慢してんだからよ」

恥ずかしがりやの立向居の錯乱とも言うべき大胆発言に、綱海は苦笑を浮かべ、握った方と反対の手で立向居のおでこを軽く叩いた。


「我慢…?」

「おうよ!
いざ始めちまうと歯止めが利かなくて激しくしちまうだろーしさ。
だから我慢、我慢」

「…なんで?」

「なんでって、そりゃあよ、俺が激しく出し入れしたら赤ちゃんが苦しいだろーが!
この奥に居んだから」

赤ちゃん…。
ああ、ここでもやっぱり「赤ちゃん」だ。

綱海が変わったのは「赤ちゃん」の為で、自分の為では無いんだ。
居もしない自分の「赤ちゃん」に嫉妬する自分は、おかしいのかも知れない。

でも、綱海のいつもと違う態度が、嬉しくてどきどきするのに、最後の最後でどうしてもストップがかかってしまのはそのせいだ。
今だってさっきまでのふわふわした気持ちが一気に鉛みたいに重くなって心を沈ませている。


「ねえ、綱海さん。
我慢なんてする必要ないですよ。
…だってそこに赤ちゃんなんていないんですから」

ぎゅっと繋いだ手を両手で胸に抱く。


最初は自分との赤ちゃんを欲しがる綱海のことを可愛いって、嬉しかったのに。
自分には変えられなかった綱海を簡単に変えてしまう赤ちゃんを妬ましく思うなんて、
自分はなんて自分勝手なんだろう。


「んなこと言うなよ。
俺はまだ飽きらめてねぇんだからよ」

ぐしゃぐしゃと掻きまわされる髪の毛。
乱暴なその手つきが今は嬉しい。
自分の知っている綱海にやっと会えた気がする。

――もっと、もっとこの綱海に会いたい。
ガサツで大らかな、自分の大好きな人。

胸に抱えていた手を自分の顔に持っていく。
その手の感触を確かめる様に頬を寄せる。
ごつごつした指…。
その指に軽く唇を押し当てて、綱海を見上げる。


「綱海さん、激しく、して下さい。
…俺はもう、我慢できません」


強請るなんて恥ずかしいこと今までしたこともなかった。
でも、恥ずかしいとか考えている余裕なんてなかった。
心が焦り以外感じなくなるぐらい、嫉妬していた。


――お願い、「赤ちゃん」なんて他の奴のこと忘れて。
…俺のことしか考えないで。


「いつもみたいに、して?ね、綱海さん」



 

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