立向居くんのしっぽ



「なあ、これって…」

いつもは恋人の時間を過ごした後、欲望の痕を拭き取ると
「またな」
って頭を撫でてすぐ自分の部屋に戻ってしまう綱海が今日は違った。

いつものように綺麗にしてくれた後に、綱海が労わる様に触れた立向居のそこ。
少しぷっくりと腫れた尾てい骨の辺りは青あざが出来ていて痛々しい。


「あっ、今日練習の時にちょっと…」

行為の最中は羞恥心なんて全部吹き飛んでしまっていても事後は違う。
事後に改めて裸体をまじまじと見られると恥ずかしくて堪らない。
立向居は寝転んだまま、赤くなる顔を枕に埋めた。

それでなくても、自分の体は細く、いつだって傷だらけで痣ばかりなのに。

――綱海さんの体とは全然違う…。

ちらりと枕の端から綱海を見上げると、未だに自分の尾てい骨辺りを上半身裸のまま真剣な顔で撫でている。


「あのっ、は、恥ずかしいんですけど」

目に入った綱海の体は、綺麗に日に焼けていて鍛えられた体を彩っている。
自分みたいに汚い色した部分なんて勿論無い。
しかも筋肉が付き難いところはぷにぷにしている子供体型を脱却できていない自分と違って、がっしりとした大人に近い男っぽい体。
その綱海が子供っぽくて傷だらけの自分の体をじっと見ている。
それだけで恥ずかしくって消えてしまいたい。


「それ、蒙古斑じゃないですからね」

子供っぽい体を自覚しているからこその弁明を、枕から顔を上げられないまま立向居が言う。

「ぷっ、分かってるって」

少しムキになっている立向居の声に、綱海は思わず吹き出した。
そしてぼすんと立向居の隣に笑いながら寝転ぶと、仰向けになって両手を頭の後ろにして足を組む。


「なあ、これ、不動のきん○まと同じやつってことはねーかな?」

「え!?」

予想外の言葉にびっくりして、立向居は恥ずかしさを忘れて上半身を起こした。
目が合った綱海はほんの少しだけ照れた様に笑った。


「場所一緒だしよ。
中で出したこともあったしよ。
無い話じゃねーだろ?」

「無いですよ!」

立向居はそんな珍しく照れている綱海の言葉を一刀両断する。


「だって俺、エイリア石なんて触ったことも無いんですよ!?」


そう、そんなことある訳が無い。
不動が子供を産めるのは『エイリア石』のおかげ。
自分は男で。
自分達は男同士で。
そんな子供ができるなんて何回中で出したってありえない。


「でもよ、近くで、でっけえの見たじゃねーか。
少しは可能性ねーかな?」

「無いですよ!
それは俺がシュートを止め切れずに吹っ飛ばされた時に腰を打って出来たものです!」

「でもよ、もしかしたらってことも…」

「無いです!」

立向居にきっぱりと半ば被るように否定されてしまうと、綱海は頭の後ろで手を組んだままごろりと立向居に背を向けた。


「う〜ん」

小さく呻いて、そのままごろんごろんと何回も体の向きを変える。

「よっ」

急に掛け声を上げた綱海が腹筋の力だけで寝転んだ状態からベッドの上へと飛び起きる。
振り向いた綱海は満面の笑みを浮かべていた。


「よっしゃ!お前は違うって言うが、俺は可能性に賭ける!
それは不動のと同じき○たま!
立向居は俺の子供を妊娠中!」

びしっと立向居を指差しながら、綱海は高らかに宣言した。

「えっ!?」

呆然とする立向居を跨いで、しゃがみ込む。
同じ高さにある綱海の顔は眩いばかりの笑顔。
綱海らしい太陽みたいな笑顔。


「俺よ、将来は海の傍で大勢の子供に囲まれて暮らすのが夢なんだ!
だから立向居、元気な赤ちゃん産んでくれ」

そう言うともう一度目の前でにっこりと笑う。


「またな」

髪をくしゃって撫でた後、いつもの言葉を残して、いつもとちょっとだけ違う綱海は自分の部屋に戻っていった。



 

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