チビ半田の産まれた日



「半田、もし良かったら俺んちで産まないか?
染岡もチビ染を連れておいでよ。
実はその……、内緒にしていたけど俺の家にも小さいのがいるんだ。
そのー…、4人も」

ある日、意を決したように影野は半田と染岡にそう告白した。




「うぉっ、本当に四人もいやがる…」

影野がタンスを開けた途端、中から勢いよく飛び出してきた三人とおずおずと影野に隠れた一人に染岡はぎょっと目を剥いた。

勢いよく飛び出してきた三人のチビ影は初めてみる影野、マックス以外の人間に興味津々だ。
特に染岡の肩に乗っているチビ染が気になるらしく、さっきから三人でチビ染の周りを飛び回ってはちょっかいを出している。

「そめ〜っ」

チビ染は同じ容姿で異なる帽子を被った三人のチビキャラに気後れしているのか、情けない声をあげるときゅっと染岡の短いピンクの髪を掴んだ。
染岡そのままの顔で怯えた様子は少し…いやかなり情けない。


「こらっ!しゃきっとしろ、しゃきっと!
テメェも男だろうがぁ!」

同じ顔でなよなよとしているのが許せないのか染岡はしがみ付いてきたチビ染を容赦なく引き剥がす。

「そっ、そめ〜っ」

そして泣きそうな顔で染岡に手を伸ばすチビ染をぐいっと三人のチビ影の輪の中に持っていく。
厳しい父性の塊のような躾だ。
そんな染岡に影野は小さく苦笑すると、チビ染を覗き込んだ。


「大丈夫だよ。皆、君とお友達になりたいみたいなんだ」

「かげ、かげーっ」

だが、いくら影野自身は優しげでも頭の上で影野の髪で自由気ままに遊んでいるチビ影の前では説得力は全く無い。
寧ろもじゃもじゃになった影野の後ろ髪にチビ染はひっくとしゃくり上げた。
まさに泣くというその瞬間、影野の艶やかな髪からもう一人のチビ影が姿を現した。

「かげ…?」

泣きそうなチビ染と引っ込み思案なチビ影の視線が交錯する。

にこり。

チビ影が影野の耳に半分隠れながらも微かに笑みを浮かべる。

「そっ、そめーっ」

ぱぁっと顔を明るくしたチビ染はチビ影に飛びついた。
にこにことチビ影を影野の耳の後ろから引っ張り出す様は先程までの怯えた様子は一切見えない。
それどころか強引ささえ伺える。


「なーんだ、あっさり仲良くなってんの。
つまんなーい!さっきの情けない染岡もっと見たかったのにー」

「てめっ、コイツと俺は別もんだっ!」

ビデオカメラを構えたマックスが茶々を入れる。
でも、マックスのビデオカメラはさっと影野に取り上げられてしまう。


「マックス、今日はママ会。
マックスは帰って」

「えー、だって半田の出産だよ?
またカメラに収めて半田のダーリンに贈らないとさぁ」

ママ会の言葉の響きにげんなりしていた染岡がマックスの言葉に一気に覚醒する。

「マックス、このっ!帰りやがれテメェ!!
ビデオなんて撮ってんじゃねぇ!」

「もうっ、染岡まで。
あのビデオ、吹雪にはすっごい好評だったんだから。
わざわざ部活中に風丸んとこに電話掛かってきてボクにお礼してたの染岡だって見てたじゃん」

「そういう問題じゃねぇーっ!!」

それも恥ずかしかったんだと染岡は内心思いながら、マックスの頭をど突く。


「いったぁー。ビデオ取り上げとか横暴だ。
もー!これはもうボクもパパで団結するしかないな。
ボクと吹雪とまだ判明してないけど、半田の旦那でさ」

頭を抑えて呻くマックスに、染岡はお!とばかりに眉を上げた。


「なんだよお前も半田の相手知んねぇのか。
お前、変に勘鋭ぇえから目星付けてんのかと思ったぜ」

「う〜ん、目星は付いてるけどね。
まあ、半田が頑なに口を割らないから確証が掴めないってだけで」

マックスと染岡の話題が未だ判明していない半田の相手に移る。
日に日に大きくなるしっぽを隠し通す事は出来ずとも、なんだかんだで半田は相手の事は隠しきったのだった。
隠し切ったというか、その話題が少しでも出
る度に真っ赤になって逃げたとも言うが。


「ま、チビキャラ見ればボクの勘が当たってるかどうか分かるデショ。
半田そのままだったら無理だけどさ」

「おい、もったいぶらずに教えろよ。
その目星ってやつを」

ぐいっとマックスの肩を染岡が掴んだその時、弱弱しい声が影野の部屋に響いた。


「おい…、俺、も…っ、限界な、んだけど…。
これ、ど…ぐらい、…い、痛くなる、と、産まれ…だ?」

ずっと声も無く影野の部屋の片隅で半田は一人で凄まじい陣痛に苦しんでいたらしい。



この後、すぐさま半田は影野邸のお風呂場に担ぎ込まれる事になる。
経産婦(?)二人と4人の子持ちパパのマックスはなんだかんだと出産の場に慣れていて、まだ時間が掛かるだろうと気楽に構えていたのだ。
すっかり放置されていた事実に気づいた半田が皆を恨んだのは言うまでも無い。



 

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