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「はーい、現場の松野です。
本日は染岡竜吾さんの出産現場から、リポーター松野、カメラ目金でお送りしていまーす」

どこから用意したのかおもちゃのマイクを持ったマックスがカメラを構えた目金の前で言う。


「部室から鬼道邸に場所を移動してから早くも二時間が経過しています。
陣痛の間隔も短くなり、いよいよ出産間際になってまいりました。
ではここで、男なのに出産してしまう染岡君にインタビューしてみましょう」

真面目くさって言うとマックスは染岡にマイクを向けた。
だが、佳境にいる染岡は話すどころではない。
口の近くに向けられたマイクから無言で顔を背ける。
その頭上には「う・ざ・い!」と怒りの文字が浮かんでいるのが見えるようだ。


「ノーコメントのようです。
では、出産が始まるまで周りの人にインタビューしてみましょう」

今度は染岡の傍に付いて何かと面倒をみている影野と半田にマイクを向ける。


「今回、皆が慌てる中落ち着いた対応を見せいざというとき頼りになることを見せ付けた影野君とー、
ここまで来ても未だに染岡の出産に見切りがついてない半田君です」

「ど、どうも」

自分の紹介が予想以上に好評価だったせいか、マイクを向けられた影野ははにかんで頭を下げた。

「どうも」

隣に居た半田も、影野が挨拶したせいで釣られて挨拶してしまう。


「出産を控えた染岡君に何か一言」

「痛いのもあと少しなので頑張ってほしいです」

「なんかよくわかんないけど、とにかく俺が付いてるぞ!」

真面目くさった顔でマックスにマイクを向けられた二人は、戸惑いながらもそれっぽいコメントをしてしまう。
しかも二人とも染岡がすぐ目の前に居るっていうのに、カメラに向かって言う。
傍で行われる茶番に染岡はうんざり顔だ。



バスルームから鬼道の部屋に来るとマックスは、早速他の部員にインタビューを始めた。

「では次にもう8回も電話をしている風丸君に話を聞いてみましょう。
染岡君に一言どうぞ」

電話中などお構いなしにマックスは風丸にマイクを向ける。
話中のケータイからは『今、染岡って聞こえたよ!?何、何かあったの!?』という吹雪の声が漏れ聞こえる。


「何もないから大丈夫だって」

風丸はケータイに向かって言うと、マックス達にシッシッと手で払う。


「吹雪君の為に撮影しているというのにツレナイ態度ですね。
では次に鬼道に無理やり連れてこられた壁山君と栗松君に話を聞いてみましょう。
ってあれ?二人は食事中のようですね。
こき使われ続けて鬼道邸の豪華な食事にやっと有り付けた二人を邪魔してはいけません。
では、次に宍戸君と少林君に伺ってみましょう。
おや、まだ八時過ぎだというのに少林君はおねむのようです」

ソファでただ待つだけだった少林は、マイクが向けられると慌てて目を擦った。


「ね、眠くなんかありません!」

だが、どう見ても+印の目は−印になっているし、先程までやけに頭がコックリコックリと上下していた。


「お子様の少林にはただ待っているだけでは眠くなってしまうようです。
おーっと、少林どころか円堂は完璧おねむのようです」

宍戸に寄りかかるように腕組をしている円堂はよく見ると完璧に寝息を立てている。
宍戸は半分寝ている少林と完璧寝ている円堂に寄りかかられて身動き一つ取れない。


「こちらでは宍戸君が宍戸君で戦っている模様です。
では最後にこの場の提供者であり、ビビりだと判明した鬼道君に話を聞いてみましょう。
これから血がドバドバ出るだろうクライマックスをどう思いますか?」

マックスが笑いを堪える表情でマイクを向けると、鬼道は煩そうに払いのけた。


「俺はビビリでは無い」

最早定番になってしまったビビリいじりに、鬼道が不機嫌そうに言った瞬間、部屋のドアが勢い良く開けられる。


「もう産まれそうだって!」

飛び込んできた半田が息も吐かずに口にする。


「そっか!!皆行くぞ!!」

一番に反応したのは、寝てたはずの円堂だ。

「おう!!」

円堂の言葉に、いつもどおりの一致団結した返事が勢い良く返ってくる。


「はい!ここで現場に変化があったようです。
急ぎ現場に直行いたします」

マックスが真面目くさってカメラに宣言し、全員が鬼道邸のバスルームに向かう。



こうして染岡は、豪炎寺を除く全員に見守られて無事子供を産んだのだった。
…しかもその一部始終をカメラに収められて。



 

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