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「ちょっと待て」

だが、その直後に鬼道が待ったをかける。


「車にはまだ余裕がある。
円堂、お前も一緒に来てくれ」

腕を組み、ゴーグルを光らせる鬼道が重々しく口を開く。
それは普段となんら変わらないように見えて、よく見ると実は顔色が褪せている。
染岡が痛がる様子を目の当たりにした鬼道は、内心必死の思いで円堂を道ずれにしようとしているのだ。


「え?
でも俺が一緒に行っちゃうと鬼道んちわかる奴いなくなるしなぁ」

円堂にスパンと断られた鬼道は、めげずに今度は豪炎寺に縋る。


「豪炎寺、頼む一緒に来てくれ」

「いや、すまんが俺は今日家政婦のフクさんが休みの日なんであまり遅くなる訳にはいかないんだ。
悪いな、染岡」

円堂に断られ大分余裕が無くなってきたのか、鬼道の言葉は先ほどよりもストレートになっている。
だが、そんな切羽詰った鬼道の言葉も、豪炎寺にやはりスパンと断られてしまう。
それどころか鬼道が密かに焦っている事など気づきもせずに、豪炎寺は染岡に向かって謝罪した。
謝られた染岡はいい、いいと手を振る。
染岡にとっては一人参加者が減って嬉しいぐらいだった。

それに反して豪炎寺にまで断られてしまった鬼道は、もう隠しようがない程青褪めている。


「だ、誰か一緒に来れるヤツは居ないのか!?」

「あれぇ、もしかして鬼道ビビってない?」

焦りで上ずった声で皆を見渡した鬼道の直後に、からかいを含んだマックスの声が響く。
人の上に立つ人間として教育を受けている鬼道は、人に弱みを見せるのを極端に嫌う。
それでなくても帝国でちやほやされて育った鬼道はこういうからかいに慣れていない。
ぎくぅーっと飛び上がるほど図星を指されたというのに、0・0001秒の速さで立ち直るとマックスの方をゆっくりと振り返った。


「誰のことだ、マックス?」

内心の動揺などおくびにも出さず、キラーンとゴーグルを光らせながら言う。
その声は付け入る隙を見せまいと、いつも以上に威厳に満ちている。


「あ、図星だから怒ってる」

鬼道の怒りなどちっとも感じていないかのように、平然とマックスはにやっと笑った。


「俺はビビってなどいない。
さっきも言ったとおり人手が必要だから言っているんだ。
準備の手伝いも必要だし、染岡にずっと付いている人間も必要だろう。
断じて俺がビビっているからなどという理由からでは無い」

「ふーん、じゃあさボクが一緒に行ってあげよっか?
鬼道が本当にビビってないか確かめたいしー」

いつも以上に饒舌な鬼道に、マックスがにやにやしながら言う。
スラスラと出てくる言葉が全部言い訳であると、見透かしているのは確実だ。

「いらん!ふざけている人間がいても邪魔なだけだ」


ごちゃごちゃと揉めている二人に染岡の声が飛ぶ。


「おい、いいから早く!
なんか…また……ッ」

早くも次の陣痛が来た染岡に鬼道が焦る。
部室の中で一番先に目に付いた人物の名を呼んだ。


「壁山、一緒に来い!!」

「えっ、俺ッスか?!」

急な御指名に壁山が焦りの声をあげる。


「お前、不動のとき傍にいただろう。
その経験を活かせ!」

「俺、あのとき何にもして無いッスよ〜」

壁山は泣き言を言うが鬼道は意に介さない。
有無を言わさず、壁山を首根っこを掴んで引きずり部室から出て行こうとする。
その後に一年達に支えられた染岡が続く。
車に乗せられる寸前、壁山はひしっと一番近くにいた一年のジャージを掴んだ。


「栗松〜、一生のお願いッス。
一緒に来てほしいッス〜」


結局鬼道は自分よりビビリ二人組を引きつれ自分の家へと帰っていったのだった。


 

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