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瞬く間に着替えも済んで、一同で染岡と円堂を中心に集まる。


「で、どうする?染岡」

一刻の猶予も無いと、早速円堂が訊ねる。

「どうするったって…。
どうすりゃいいんだ?」

染岡自身もこれから自分の身に何が起こるのかさっぱり分からない。
地球外の物質が作用して男の身で妊娠したのだ。
産婦人科に通ってる訳でもなければ、どんな医学書にも同じ症例なんて載っていない。
偉い先生に聞けばちゃんとした答えが返ってくるものでもない。

……と思って何も調べておかなかった、染岡の怠慢が原因だった。


「不動に聞いてみるか」

この世で唯一同じ体験を経験した不動の名前が、鬼道からあがる。

「さっすが鬼道、冴えてるな!
よし、誰か不動の連絡先知ってる奴いるか?」

名案とばかりに円堂がぐるりと一同を見渡すが、誰も知っている者がいない。
提案者の鬼道でさえ知らないのだ。


「く…っ不動の奴め、どこまでも使えん奴だ」

鬼道が吐き捨てる様に言うが、明らかに不動の責任ではない。
むしろボッチ状態を放置していた周囲に責任があるといえる。
しかもそのボッチ状態を率先して招いたのは鬼道である。
不動を責めるのは酷というものだ。

そこで、またしても影野の手があがる。
今日の影野はなんだか輝いている。
……とはいえ存在が無視されていないといった程度の輝きだが。


「染岡は家族にしっぽのこと言ってあるの?」

「え?言ってねぇけど…」

男とヤってしっぽが生えましたとは中々親には言い難い。
というか普通は言えない。
しかも、原因はエイリア石だ。
ダークエンペラーズ戦がTVで放映された時、染岡は散々泣かれていた。
『どうしてお前だけあんなに悪役がしっくりくるんだ』と、染岡そっくりの顔をした母親に。
という事もあり、染岡家ではダークエンペラーズに関する事は一切禁句とされているのだ。
エイリア石のせいで妊娠しました、とは言えるはずもない。


「じゃあ、染岡の家で産むのは避けた方がいいんじゃないかな。
いきなり染岡が出産を始めたら、家族はびっくりするんじゃない?」

染岡は自分が一人で自宅の風呂場で出産するところを想像する。
未だ生態の分かっていない子供を出産直後に親に説明する自分。
出産だけでも未だ怖いままなのに、その直後にそんな苦行が待ち構えているなんて想像するだに嫌だ。


「無理無理、絶対無理!!」

染岡が青い顔で影野の言葉を肯定する。


「そうなると、このまま学校か誰かの家ってことになるね。
もうすぐ夜になるし時間がどれくらいかかるか分からないから、学校よりは誰かの家の方がいいんじゃないかな」

「ということは、誰んちに行くかってことか」

円堂の言葉に影野が頷く。


「俺んちに来てもらってもいいんだけど、染岡はできるだけ秘密にしておきたいんだろ?」

円堂が染岡を見るとぶんぶんと首を振って肯定している。

「となるとなあ、うちは絶対母ちゃんにバレるからなぁ。
皆の家だって、染岡が来て長い間風呂場とかトイレに篭ってたら絶対家族の人が不審がるだろうしなぁ」

うーんと腕を組みながら、円堂は頭を捻った。


「あっ、そうだ!鬼道。
鬼道のうちはどうだ?」

「…うちか?」

暫く悩んだ後、円堂はポンと頭の上に電球を煌かした。
突然円堂に御指名を受けた鬼道は、驚いたように顔をあげた。


「そう!
鬼道んちの親父さん、忙しくって留守がちだって言ってたじゃないか。
それに家が広いからバレにくそうだし」

身を乗り出すように円堂が言うと、隣の染岡も縋る様な目で鬼道を見つめる。
円堂、染岡のWキラキラした目に、鬼道はうっと腰が引けてしまう。

本音を言えば断りたい。
きっぱりさっぱり拒絶したい。
普通の出産でさえよく知らないというのに、男の出産なんて未知のものに立会わなければならないのだ。
うろたえ、醜態をさらさない自信がない。
だが言葉に詰まった少しの間に、気づいたら風丸や一年を中心にキラキラとした期待に満ちた目がさらに増殖している。


「……分かった。うちに来ればいい」

人並み以上に責任感を持ち合わせてしまった鬼道は、結局断れず仕方なく承諾する。
だがそこは雷門が誇る天才ゲームメーカー。
ただでは転ばない。
承諾と同時に鬼道はある条件を持ち出した。


「ただし、条件がある。
染岡だけでなく皆にも来てほしい」

鬼道の条件に染岡はがくっと項垂れる。


「なんで皆なんだよ」

「人手は多い方がいい。
それに染岡一人より皆に来てもらって、サッカー部の集まりだと言った方がバレにくい」

誰かに立ち会ってほしいけど流石に皆に出産を見られるのが恥ずかしい染岡と、
出産に一人で立ち会うのが怖いと素直に言うのが恥ずかしい鬼道が、お互いの本心を隠して言い合う。


「でもよ…!」

尚も染岡が反対意見を言おうとして途端にぴたっと動きを止める。
そして動き出したと思ったら、ぎぎぎっと音を軋ませて蹲ってしまう。


「やば…、本格、的に、痛くなって、きやがった…!」

下腹部を押えて床に手を着いた染岡に、再度皆が慌てだす。
口々に急がないととか本当に産まれるでヤンスとかの言葉が部室を行き交う。


「お!…収まった」

少しして染岡が大量の息を吐き出しながら安堵した顔を上げて言うと、同じような安堵の溜息を全員がつく。


「やっぱり陣痛みたいだね。
これからどんどん痛みの波が来るはずだから急ごう」

影野が静かに言い切ると、円堂が頷く。

「よし!
染岡と鬼道はこのまま鬼道んちの車で直行。
俺達は一度家に戻ってから、もう一度自転車で学校に集合だ!」


円堂が高らかに宣言した。


 

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