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しっぽ発覚から何週間も経ち、しっぽのことがすっかり話題にさえならなくなったある日。
放課後の部活練習後、皆で後片付けとグランド整備をしているときに染岡が何気なく言い出した。


「あ〜、今日はバシっと決まらなかったぜ。
なんか腹の調子が悪くってよー」

「なんか変な物でも食べたんじゃないか?」

その言葉を肯定するように、シュートを受けていた円堂が染岡の調子の悪さを実感して訊ねた。


「いやぁ、腹を壊したって痛みとはちっと違うんだよなぁ。
こう波がはっきりとあって鈍く重いっていうか」

染岡自身、経験のない痛みにしきりに首を捻る。


「おいおい、そこら辺の物拾って食べたんじゃないかぁ?」

傍で聞いていた半田がからかい始める。


「壁山じゃないんだから、んなわけねーだろ」

「俺だって拾ってまでは食べないッスよ」

染岡のツッコミと壁山のどこか慌てたような否定に皆の笑いが起こる。
和やかないつもの風景といえるだろう。
笑いが収まったあと、影野がボソっとこう言うまでは。


「それって、もうすぐ産まれるからじゃない?」

その一言に一同はっとした。


「そーだよ、しっぽのことすっかり忘れてた」

「マジで産まれるのかよ!?染岡が産むのかよ!?」

「どうするんだっ」

「吹雪に連絡しないと!」


妊娠や出産といったことに全く縁が無い男子中学生の集団は、一気に混乱した。
染岡本人でさえ、顔を青くしてオロオロと周囲と一緒に混乱している。


「とっ、とにかく落ち着くんだ。
皆、深呼吸するぞ!」

キャプテンである円堂の声で一斉に深呼吸が始まる。
スーハーと深呼吸を終え、何とかしてくれるのかという期待の視線が円堂に集まる。


「で、何をすればいいんだ?」

案の定、ノープランな円堂に部員一同のベタなズッコケが決まる。


「だからー、それがわかんなくって困ってるんじゃないですか!」

「そーですよ、キャプテン。
しっかりして下さいよ!」

宍戸、少林の一年生コンビによるWツッコミが決まる。
それが切っ掛けでまたギャーギャーと紛糾しだす。
中学生男子に妊娠、出産のなんたるかを熟知している人間が居る方がおかしいのだ。
サッカー部の混迷は当然と言える。……かもしれない。
そんな中、恐る恐るといった感じで影野の手があがった。


「なんだ?影野」

円堂が問いかけると辺りが静かになる。


「あの…とりあえず早く着替えないと。
本当に産まれるなら、これからもっと痛くなるだろうし。
痛みで動けなくなったら移動も難しくなるだろうから」

初めての建設的な意見に一同は、またもやはっとする。


「そうだな!
急いで片付けて部室に戻ろう。話はそれからだ!」

「おう!」

円堂の意見に一致団結した返事が返ってくる。
簡単に右往左往するくせに、こういう時の一致団結だけは早い雷門中サッカー部であった。



 

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