染岡さんの出産



「あれ、染岡も誰かにヤられちゃったの?」

帰国後、初めての部活の練習で染岡は、マックスにぎょっとする様な指摘をされた。


「な、な、な、なんでッ!?」

「だってソレ、しっぽでしょ?」

声が上ずり、明らかに動揺が隠せていない染岡の腰をマックスが指さす。
そこには微かではあるが、確かにテントを張った様な出っ張りがある。


「おま…っ!
何でお前がしっぽのこと知ってるんだ!?」

顔を真っ赤に染め、染岡がマックスに見当違いな怒りをぶつける。
イナズマジャパンのメンバーなら兎も角、日本に残っていたマックスまで既にしっぽのことを知っているとは思わなかったのだ。
警戒すべき人物を少なく見積もった油断が染岡にマックスを責めさせた。


「え?」

マックスは一瞬驚いた表情をするが、すぐ普段通りの人を食ったようなにやりとした顔つきに戻ってしまう。


「なんで、って日本にも連絡来たからねー。
鬼道からも来たし、瞳子監督なんか何回も学校に来たよ。
『男と性交しなかったか』って。
男とヤってる奴なんているわけないのにねー?」

肩を竦めながら言うとすぐさま、あっと気づいた様な顔をする。
わざとらしくパーの形にした手で口を隠す様子が、この上なく人をおちょくっている。

「あっ、ごめーん!
染岡はヤってるんだっけぇー」

ごめんねと染岡に手を合わせる。
マックスのワザとらしい一連の茶番劇に、案の定染岡の顔が怒りと恥ずかしさで真っ赤になっていく。


「…マックス、言いてぇことはそれだけか!?」

ふるふると小さく怒りで震えながら染岡が呟く。

「あれ、染岡怒っちゃった?
でもさー、これ位で怒ってたら身がもたないよ?
だって皆しっぽのこと知ってるんだもん」

染岡の怒りなど、どこ吹く風といった感じで言うと、マックスは近くでストレッチをしていた半田を大きな声で呼んだ。


「おーい、半田ー!
染岡にー、しっぽ、生ーえてるよぉー!!」

良い子のみんなー、あーつまーってー!!
と幼児にむかって叫ぶ体操のお兄さんばりの爽やかな声でマックスは半田を呼ぶ。


「え!?マジで!?」

余程驚いたのかマックスが声を掛けた途端、半田はストレッチの体勢のまま首だけぐるっと振り向いた。
ぐきっとこっちにまで聞こえてきそうである。


「染岡ぁ〜。
お前、ホモになっちゃったのかよ〜」

半田は親友と思っていた染岡にしっぽが生えるという現実に半泣きだ。

「お前、あんなに巨乳好きだったじゃないかよ〜」

半田は染岡の胸倉を掴んでぐらんぐらんと半泣きで揺すった。
サッカー部が弱小だった頃は部活をサボって一緒にグラビアを見ながら胸について熱く語りあっていた二人だったのに、今の半田には染岡がやけに遠く感じる。
半田は変わり果てた染岡に、在りし日の染岡がいかに女の胸が好きだったかを力説しだした。
半泣きで巨乳の素晴らしさを力説する半田と揺すられて困惑している染岡に、マックスは大ウケだ。


「そこー、何やってんだー!
練習中だぞー!!」

やけに騒がしい様子に、ゴールポストにいる円堂からついに注意される。


「円堂〜、染岡にしっぽ生えてきた〜」

染岡の胸座を今だ掴んだまま、半田が円堂に泣きつく。
半田にとっては巨乳同盟染岡がホモになってしまった事がそれ程ショックだったらしい。


「えっ、本当か!?」

半田の大きな声に、円堂のみならずほとんどの部員がぎょっとして染岡の方へと顔を向けた。
こういう時の一致団結さでは他の追随を許さないと定評がある雷門サッカー部の面々に、逃げる間もなく染岡はあっという間に取り囲まれてしまった。


「なんだ染岡、結局吹雪に根負けしてたのか!」

あっけらかんとした円堂の言葉に、事情を知らない日本にいた部員達はハテナ顔だ。


「どういうこと?」

マックスが円堂ではなく鬼道に訊ねる。
鬼道を選んだのは賢明な判断と言えるだろう。

「ああ、吹雪がある日子作り宣言してな。
染岡に迫り続けていたんだ。
なんだかんだで染岡は逃げ切ったとばかり思っていたが、まさかちゃんとシていたとは…」

鬼道が腕を組み、大変分かりやすい経緯を説明する。
やはり円堂ではなく鬼道で正解だったようだ。


「そうっスよ!
したんならしたとはっきり言ってほしかったッス。
食い物の恨みは怖いッスよ!!」

壁山が突然大きな声で主張すると、はっと慌てて口を押さえる。
その態度に染岡はピンと閃く。


「壁山ぁ、テメェ俺で賭けてやがったな!?」

壁山が逃げる前に走り寄ると、壁山の大きな頭をヘッドロックで締め上げた。


「待って下さい!
賭けようって言い出したのは木暮君なんです。
壁山君は悪くありません!」

その時、音無が壁山を庇うように染岡の腕を掴んだ。
懸命な音無の壁山命乞いも、鬼道の言葉ですぐさま台無しになる。


「春奈。
…もしかしてお前も賭けていたな?」

「えへ、だってアイス賭けるって言うし、絶対勝てると思ったんだもん」

兄ならではの推理に、音無しは全く悪びれる様子もなく答えた。


「そうッスよ。
染岡さんはなんだかんだで頼られると弱いし吹雪さんに甘いから、最後には許しちゃうと思ったッスよ。
俺達染岡さんを信じて賭けたッスよ!」

染岡に首を絞められたまま、壁山もここぞとばかりに言い募った。
「頼られると弱い」やら「染岡さんを信じて」だのの耳障りの良い言葉も今の染岡には通じない。
吹雪との攻防で大分経験値がアップしたらしい。


「テメェ!俺を信じてって言うが、ヤラれる方に賭けてんじゃねーか」

染岡がさらに壁山の首を絞める手に力を込めた。


「だって現にしっぽ生えてるじゃないッスか!」

「う…」

だが壁山の死に物狂いな反論に、染岡は思わず手を離す。


「もっと早くしっぽが生えていればアイスが沢山食べれたのに悔しいっス」

なんとか死地を免れた壁山は、すぐさま染岡から距離を取る。
そして心底悔しそうに壁山は、日本全国に散った賭けの相手にアイスの取立てに行く手段も無い事を嘆いた。
相当アイスが食べられなかったのが悔しいらしい。


「そうですよ!
私達三人で五人にアイス奢ったんですよ。
お小遣い大分減っちゃったんですから!」

同じく春奈も悔しそうだ。


「なあなあ、三人って?」

自分が気になったことは空気を読まずに聞くことができる特技を持つ円堂が、無邪気に口を挟んだ。


「私と壁山君とヒロトさんで、
木暮君と立向居君と綱海さんと土方さんと虎丸君に奢ったんです」

「ヒロトもか!」

つらつらと賭けのメンバーを挙げ連ねる春奈に、円堂が驚きの声をあげる。
一年プラス陽気な沖縄組という定番のメンバーに一人だけ馴染まない名前があったからだ。


「木暮君がいつの間にか仲良くなっていて誘ってたんです。
ヒロトさん『吹雪君の情熱に賭ける』なんて言って自信満々だったから、アイス買うとき『吹雪君を見損なった』ってプリプリ怒ってましたよ」

まあ、結局私達が当たってたんですけどと音無しは誰とも無く独りごちる。


「そっか、流石だなヒロト!」

そして円堂の的ハズレな感嘆な声に、場はなんだか和やかなムードになり一気に賭けの話題で盛り上がりかけた。


「だー!!賭けの話はもういい!
とにかく、俺のことは誰にも言うな。ここだけの話にしろ!
特に壁山!!
お前近いからって虎丸にアイス取立てに行って話すんじゃねーぞ!!」

ほのぼのムードをかき消すように染岡がキレて怒鳴ると、一人でさっさと練習を再開してしまう。
そうなるとサッカー馬鹿第一人者の円堂も練習再開の号令を上げる。
ずっと大ウケだったマックスも、ショックを隠しきれない半田も、なんだかアイスが食べたくなってきた壁山も円堂の鶴の一声に倣う。
あとには、染岡と吹雪のキューピッド役を買ってでていた風丸だけが一人、吹雪のことを思い胸を熱くさせていた。

良かったな、吹雪……!
と胸に手を置く風丸さんが居たとか居ないとか…。



 

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