エピローグ
「染岡クーン」
北海道の地元の空港で吹雪はきょろきょろとしている染岡に手を振る。
染岡に会うのはFFI以来になる。
「あっ!吹雪、てめぇ!!」
でも、久しぶりに会うというのに染岡はすごく不機嫌だ。
嬉しそうに駆け寄った吹雪の頭を、会った途端殴りつけた。
「お前、妊娠期間考えて無かっただろ!?
さっさと北海道に帰りやがって!!
こっちは一人で産むの大変だったんだぞ!!」
怒り心頭の染岡は、空港のロビーだと言うのに辺りを憚らずに大声で怒鳴りつけた。
会話の内容と、それを話している染岡の風貌の不一致に周りの人々がチラチラと好奇の目を向ける。
「そ、染岡クン、声抑えて」
辺りの目を気にして吹雪が注意するが、染岡の怒りは収まらない。
「男ならちゃんと責任持てよ!!
てめぇが父親だろーが!!」
空港中の怪訝な目を一身に受けて、染岡のその怒鳴り声は辺りに響き渡った。
染岡のしっぽが大きくなったのは、結局FFIが終わり帰国してから暫くしてからだった。
誰もがしっぽの事をしってる中、染岡は雷門中で散々からかわれ出産さえもサッカー部総出で見守られてしたのだ。
今までの恥ずかしさを思えば、二度と会わない通りすがりの人の目など染岡は気にならない。
怒りが収まらない染岡は放っておくといつまでも怒鳴り続けそうだ。
そんな染岡を引きずるようにして吹雪は人の目の無いところに行く。
「全部僕が悪かったってば。
ね、謝るから早く会わせて」
二人っきりになった途端に吹雪は頼みこむ。
産まれたって連絡を受けてから吹雪はずっとずっと二人を待ちわびていた。
待ちに待った瞬間なのだ。
「ちっ、仕方ねぇな」
染岡だって吹雪がずっと待っていたのは分かってる。
怒りまくった手前、渋々といった感じで背負っていたリュックを下ろした。
リュックを開けると、中から染岡そっくりの15センチくらいの生き物が飛び出してくる。
「そめー!!」
鳴き声をあげながらソレは一直線に染岡に飛びついた。
「コイツいっくら言っても男らしくなんねぇーんだよな」
バリっと顔に引っ付いたちび染岡を染岡は慣れた様子で引き剥がした。
そして、ほらと掴んだちび染岡を吹雪の方へ投げて寄越す。
「こ、こんにちわ」
無造作に投げたのも、急な対面も吹雪にはびっくりだった。
咄嗟になんて言っていいか分からず間抜けな挨拶をしてしまう。
「そめ?」
初めて会う吹雪にちび染岡も戸惑い顔だ。
「ね、触っても平気?」
傍らに立つ染岡に吹雪は不安そうに訊ねた。
「あったり前だろーが」
染岡の太鼓判に吹雪は恐る恐る指を伸ばす。
自分に向かってくる指をちび染岡は両手で掴むと、吹雪の腕をよじ登りはじめる。
「うわっ」
思いがけないちび染岡の行動に助けを求めるように染岡を見るが、染岡は大丈夫という感じで頷くだけで何もしてくれない。
何が起こるんだと、吹雪は不安そうにちび染に視線を戻した。
ちび染岡は「んしょ、んしょ」と肩まで登ると、吹雪の顔をべしべし叩くとにこっと笑った。
その笑顔にやっと笑顔が戻った吹雪はもう一度ちび染岡に手をやると、自分の顔の前に持ってくる。
「初めまして。
僕が君のパパだよ」
END
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