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次の日。
染岡は珍しく、ちび不動と楽しそうにキャッチボールをしている不動に声をかけた。


「…よお」

染岡が声をかけると、不動はキャッチボールをするのを止め皮肉気に口を歪めた。


「ハッ、誰かと思ったら子猫ちゃんかよ。
狼から逃げてきたか?」

ま、随分厳つい子猫だけどな。
不動は自分で自分の言葉にツッコミを入れると楽しそうに嘲り笑う。


…コイツまで知ってるのか。
チームで孤立してる不動まで吹雪とのいざこざを知ってるとことに、染岡はくらりと眩暈を感じた。
確実にチームで知らない人間はいない気がする。
あの無愛想な監督まで知っているのではないか…。
染岡は久遠監督が「試合前の性交渉は避けるように」と無表情で注意してくる姿を想像して、ぶるりと嫌な想像渦巻く頭を振った。


「…なあ」

染岡は嫌な考えを避けるように不動の言葉を一切無視して、改めて口を開く。


「アレって、……痛ぇのか?」

「へえ、ヤラれる気になったのかよ」

言い辛そうにたっぷりと間を取って言われた染岡の言葉に、不動は驚いたように眉を上げた。


「そ、そーじゃ、ねえけど…」

無骨な顔を赤くして口篭る染岡に、不動はニヤニヤしながら近づいた。
誰が見ても不動の顔は染岡をいたぶる気満々に見える。


「痛っいぜ〜。
最初は特にな。
あの狼クンのちんぽがでかかったら地獄だぜ」

「ち、ちげえ!」

不動のからかい目的の赤裸々な言葉に、純情派染岡は思惑通り慌てて怒鳴り返す。


「へー、狼クンのちんぽは極小か」

「そ、そうじゃなくて!
あいつ産んだ時のことだよ!」

不動の中学生らしからぬ下ネタ方向に達者なからかいが、染岡の手に負えるはずもない。
染岡は怒鳴るように否定すると、ふわふわと不動の周りを手持ち無沙汰に飛んでいたチビ不動を指差した。


「…ああ、そっちかよ」

不動はエッチ系の話題じゃないと分かった途端に興味を無くしたようだった。
何も言わず、持っていたボールをちび不動に投げる。
自分の体程のボールを必死に追いかけるチビ不動を、不動は染岡が今まで見たことの無い優しい顔で眺めた。


「もう、二度とゴメンだね」


そう呟くと、不動は染岡がもう居ないかのようにキャッチボールを再開した。


染岡は勝手気ままな不動の背中を見つめ溜息を吐いた。
あんなにちび不動のこと可愛がってるのに、二度と嫌だって言う程痛いのかよ…。
染岡は断固拒否を改めて心に決めた。



その夜、吹雪はうきうきと染岡の部屋へと向かう。
昨夜が思いのほか良い雰囲気だったので今日あたりイケると目論んでいるからだ。
コンコンと染岡の部屋をノックする。
何も言わずドアを開けた染岡を見上げ手を組み涙を浮かべる。


「染岡クン、一回でいいからお願い」

吹雪はそう言うと可愛らしく小首を傾げる。
途端に眼前で閉められるドア。


…あれ?昨日の感じだと泣き落としに弱い気がしたんだけどな。
めげない吹雪はもう一度ドアをノックする。
またも無言で開ける染岡に今度は思いっきり泣きついた。


「染岡クン、僕のこと少しでも好きなら抱かせて!
僕、君の子供が欲しいんだ」

染岡の腕に縋り付くが、すぐ剥がされてしまう。
そしてまたも吹雪の目前で無情にも閉めらるドア。

おかしいなぁ?今日の染岡クンいつもよりガードが固い。
不審に思いながらも、こんな事で挫けるような吹雪ではない。
もう一度とばかりにコンコンと可愛らしく聞こえるようにわざと軽いノックをした。


「染岡クン、お願いします!
どうかこのとおり!!」

そして恥も外聞も無く、吹雪はドアの前で土下座をして懇願する。
だが、それさえも無視して閉められるドア。


「もー、怒った!!」

最後の手段と思っていた土下座さえ無視された吹雪はついにキレて染岡に襲いかかった。


「こうなったら実力行使だ!
染岡クン、泣いたって知らないから!!」

高々と染岡に向かって飛び掛る。


「てめぇ、俺に勝てると思ってんのか!?」

染岡も向かい討つ気まんまんだ。


「熊殺しの吹雪の異名は伊達じゃないよ!!」

「スピードはてめぇが上だが、パワーは俺の方が上ってこと忘れてるようだな!!」


こうして染岡の貞操を賭けた戦いの火蓋が切って落とされた。


子作り宣言三日目。
懇願&力ずく作戦失敗。



 

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