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その日の夜。
吹雪のことを思って中々自室に戻れなかった染岡は、最後まで付き合ってくれた風丸が三回目の欠伸をした時ついに部屋に戻る決心をした。


はあ〜、今日もまた来るんだろうな。
そう思いながら自室のドアを開けると、そこにはもう既に染岡のベッドに寝転ぶ吹雪がいた。


「遅いよ、染岡クン。
僕もう、待ちくたびれちゃった」

あっけらかんと唇を尖がらせて言う吹雪に染岡の怒りがついに頂点に達す。


「おまっ、勝手に入るな!」

追い出そうとベッドへとドカドカと音を立てて向かう。
怒りの形相でベッドに近づいてきた染岡を吹雪がキっと睨む。


「染岡クン、僕とのことは遊びだったの?」

目の端に涙を溜めてベッドの脇に立つ染岡を吹雪は上目遣いで睨んだ。


「あっ、あれはお前、
お前が最初に軽い気持ちでって言ったんじゃねーか!!」


まず涙という飛び道具に気圧され、染岡はぐっと鼻白んだ。
そのうえ遊びという、人情家で義理堅い染岡が人生で言われる事もないと思っていた種類の人聞きが悪い言葉で一気に息絶え絶えになってしまう。
なんとか気力で怒鳴り返したものの、追い詰められた上での逆ギレにしか見えない。
流されるままに超えてはいけない一線を既に越えているという事実が、染岡の心を重くする。



あの日、宿舎でごろごろとベッドに寝転びながら二人でくだらない取り留めの無い事を話してただけだった。
最初はそんな当たり前の光景っだったはずだ。
それなのに、当たり障りの無い「サッカーばっかで最近芸能界のことにすっかり疎くなったって話」は、気づいたら「好きな女のタイプの話」になって、最終的には宿舎でのオカズ不足の話に変わっていた。
そこから吹雪が『一人でするより誰かに触られる方が気持ちいいよ』という眉を潜めてしまうような発言が飛び出し、流れがおかしくなった。
それでも染岡が『お前はモテるからいいけど、俺は誰かに触られたことなんかねーんだよ』と不貞腐れて言ったまでは、まあ微妙な空気ではあるもののまだ超えてはいけない一線の内側にいたはずだ。
だが吹雪の『じゃあ、僕がしてあげる』って言葉と軽いタッチでそれは一気にライン上をぐらぐらする危ういものへと変わった。
『軽い気持ちで楽にしててよ。溜まってるんでしょ?』って言う吹雪の言葉と軽いタッチのじゃれ合いにアッという間に、それはレッドゾーンに突入していた。

惜しむらくは中学生の飽く無き性欲。
仇となった染岡の純真ゆえの早漏。
…といったところである。


そして、それ以来恐ろしい事にその行為は習慣化していたのである。


「だからって染岡クンが遊びで何回もああいうことができる人だと思ってなかった!」

吹雪は染岡を睨みながら吐き捨てる様に言う。


「そ、それは…っ」

吹雪の言葉に、染岡はもごもごと口篭る。
それはどう見ても「返す言葉もございません」という完全降伏の意味に見えた。
だが、染岡は言葉に詰まった後、不貞腐れたように吹雪から視線を逸らし、そっぽを向きながらポツリと呟いた。


「…ちゃんと考えてっから」


「え?」

吹雪が聞き返すと染岡は視線どころかと身体ごと、吹雪の視線から逃げるように後ろを向いてしまう。


「お前とのことは遊びじゃねぇ。
…ちゃんと真剣に考えてるよ」

そう言葉にすると、染岡は後ろを向いたまま不貞腐れたように後頭部をガシガシと掻いた。


確かに一回目は欲に流されてしまった。
あっという間の出来事だった。
でも、二回目以降はちゃんと自分の意思で吹雪に触れた。
染岡はちゃんと気づいていたから。
初めて染岡に触れた時の吹雪の手が、小さく震えていることに。
軽い気持ちって言ったくせに吹雪自身は全然軽い気持ちではないことに。
そして、そんな吹雪を愛おしいと思っている自分自身に。

ただ、恥ずかしくって改めて口に出来なかっただけだった。


「染岡クン!!」

まさかの大どんでん返しに吹雪は染岡の背中に飛びつく。
染岡の真っ赤な耳が吹雪の目の前にある。
その真っ赤な耳に囁く。


「染岡クン、大好き!」

「…………おう」

照れ屋なとこも可愛いと、吹雪は染岡の肩に顔を埋める。
染岡の肩に回した吹雪の手を染岡がそっと触れる。


き、きた…。
吹雪がラブラブモードキタコレ!と期待に胸を高鳴らせるていると、急に視界がひっくり返り背中に痛みが走る。


「???」

予想外の展開に吃驚して見上げると、染岡が口をへの字にしている。


「ただ、それとこれとは話が別だ。」

きっぱりと言い切ると、投げられ仰向け状態の吹雪をゴロゴロと部屋の外まで転がす。


「そ、染岡クン!」

吹雪が抗議する間もなく、部屋の外へ出され無情にも閉められる鍵。



子作り宣言二日目。
いいところまで行ったものの、泣き落とし作戦失敗。



 

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