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「こいつの父親は源田だったのか」

ちび不動を掴んで鬼道が不機嫌そうに言う。
父親であろう人物が親交の厚い旧知の友だったので複雑なのだ。


「違う!
エイリア石持ってるときにヤったのは影山だけだ!
アイツは…、アイツは関係ねー!!」

咄嗟に源田を庇うため今まで黙っていた事実を話してしまう。
今のイナズマジャパンでの不動自身の扱いを考えると、自分の言動一つで源田を自分と同じような境遇に陥れてしまうような事は不動はどうしても避けたかった。
それぐらいならいくらでも事実を話す。
そう思うぐらいには不動にとって源田はデリケートで複雑な存在だった。
だが、鬼道はため息をつくとすぐ首を振る。


「影山はセーフだ」

「はあ?」

「あの男は空砲だ。
いくら地球外のものが作用しようとも、無いものから作り出すのは不可能だろうからな」

「どういう意味だ?
ハッ!というか、なんでお前が影山のそんなことまで知ってるんだよ?」

淡々と説明していた鬼道は不動のツッコミに顔を赤くする。
思わぬ指摘、というヤツだったらしい。


「そ、そんなことはどうでもいい。
とにかく本人が『自分は無精子症だから例え女でも孕むことはない』と言ってたんだから確かだ」

顔を赤くしたままムッとして取り繕うように言う姿に不動はニヤリとする。


――こいつ相当動揺してるな。

影山と鬼道の間に何か如何わしい行為があったと容易に想像出来てしまう不必要な言葉は、普段だったら鬼道が絶対口にしないようなミスだった。


「へえ、優等生の鬼道クンは影山と女だったら妊娠しちゃうようなことしてたのかあ」

すっかりチンピラの顔で皮肉げに言うと、鬼道の顔はさらに真っ赤に染まる。

「ははっ、ビンゴかよ。
鬼道クンは随分情熱的なんだな。
中出し上等、影山の子を孕みたいってか?
サッカーだけじゃなく、ソッチのほうもお上手ってか」

顔を赤くして屈辱に耐えるように俯いてしまった鬼道をさらに追い討ちをかけるように下から覗き込む。


「鬼道、気にするな!
影山だったら、俺も寝た!」

そんな鬼道を見かねて、佐久間から入ったフォローは全くもって意味不明だ。


「あれ、奇遇だね。
僕もだよ」

しかもいつの間にいたのか基山も話に加わってくる。
そのせいで場が一気に混沌と化す。


「僕は父さんに言われて接待として何回か。
佐久間くんは?」

「お、俺は拉致られたときに一度だけ…」

「そう?あの人上手いから何回もすると病み付きになっちゃうもんね。
数こなしてるから上手いのかな?」


あっけらかんとした基山の推測にその場にいた三人は明らかに音を立てて引いていく。


――こいつらと棒兄弟かよ…。


この場にいる全員が影山と寝ているという事実が不動をうんざりさせる。
探せばもっと他にもいるかもしれない。
そこまで考えて不動はハっと気づいた。


「お前らなんでこの前監督が聞いたとき手ぇ挙げなかったんだよ!?」

死ぬほど恥ずかしかったあのときを思い出し、エイリア石関係者二人に詰め寄る。


「もし君が僕の立場だったら手を挙げる?」


だが優雅に質問に質問で返した基山の答えに不動はがっくりと頭を垂れた。
外見と異なりそこそこ聡明な彼にしては、自己嫌悪に陥る程の愚問だった。


そのときゴホンと流れを断ち切るように鬼道が咳払いをする。


「とにかくだ」

話を纏めようと冷静さを取り戻して、不動に確認する。


「影山が父親という可能性は極めて低いわけだ。
ということは、エイリア石所持時の性交という前提が間違えていたということも考えられる。
お前、源田とはいつシたんだ?」


――勝手に父親を源田で確定すんな。
致したという既成事実確かにあるのだが、他人からそれ前提で決め付けられると途端に恥ずかしくなってくるのが人情だ。


「…日本を離れるときに一度だけ、な」

不貞腐れたように不動は仕方なくそう口にした。


「なんだ否定しておきながらヤる事はシてるんじゃないか。馬鹿らしい。
まあ、そうだとしたらもしかしたら副作用で体質が変化したのかもしれん。
他の事例があると推測もしやすいんだが…」

妙案があるが言い辛いとばかりに鬼道は言葉尻を濁して考え込む。


「基山、お前はどうだ?
それ以降誰かとシてはいないか?」

鬼道は少し逡巡したあと、基山にプライベートな質問をぶつけた。


――俺にはズバッと聞いたくせになんだその差は。

あからさまな態度の違いに、内心腹の虫が収まらない。


「んー、シてることにはシてるけど中出しさせるようなヘマはしてないし。
そもそも生ですること自体そうそうないしね」

しかも聞き辛そうに訊ねられた質問だというのに、基山の返事にはなんの衒いもない。
サッカーの練習してる?と質問されたのと変わらない気軽さで基山はさらりと答えた。


「それに僕、中で出されるより顔に掛けられる方が好きなんだ。
顔に掛ける瞬間の相手の支配欲で勝ち誇った顔を見るのが堪らなくって。
そんなことで僕より勝ってる気になれるなんて馬鹿だよね」


それどころか聞いてもいない性癖の話をべらべらと喋る基山に辟易する。
しかもその性癖は相手が同性相手であるという事を差し引いても相当に歪んでいる。
見下したり見下されたりするような相手とするなという、当たり前の指摘さえ虚しく感じる。


「そ、そうか。
では佐久間、お前はどうだ?」

鬼道もうんざりした様子でさっさと佐久間に話をふる。


「俺はそういうことは…」

中学生にしてディープな事を言ってのける基山に比べると、恥ずかしそうに言葉を濁す佐久間にむしろホっとする。


「そうだな、今は色恋沙汰よりサッカーを大事にしたい時期だしな」

鬼道も同じような反応でフォローした。


「ああ、今は鬼道の靴下さえあれば十分だ」

鬼道の言葉を肯定するように佐久間が頷く。
だが、その言葉の内容は決して簡単に同意できるものではない。
というかある意味基山よりもディープな世界が飛び出してきてしまった。
自分のフォローが仇となった形の鬼道は、対処に困って視線をさ迷わせた。
天才ゲームメーカーでも咄嗟の判断が出来ないくらいの発言をしたとは夢にも思っていないであろう佐久間は、思い出しているのかうっとりとした表情を浮かべる。


「あの芳しい匂いだけで一日の疲れが吹き飛ぶ巧の一品だ。
染岡のに比べると酸味がマイルドで、円堂のに比べて円熟した深みがある。
あの絶妙な芳香さえあれば今は恋人なんて邪魔なだけだ」


「そ、そうか。
……程ほどにな」

きっぱりと言い切る佐久間に鬼道は突っ込んだ話をしないという消極的なスルーを選んだ。
そのたしなめる程度で話を終わらせた鬼道に、不動は今までの不満を爆発させた。


「おい、てめえはこの変態共は放置か!
俺よりよっぽどタチ悪ぃじゃねえか!」

日ごろ鬼道に冷たい態度を取り続けられていたのが、密かに辛かったらしい。


「こいつらは確かに度し難い変態だ。
だが、性根が腐ってる貴様よりは百万倍ましだ」

きっぱりと言い捨てる鬼道に、不動は急にこの一連の騒動の激しい疲れを感じた。


――こんな奴らに俺はイジられまくってたのか。
しっぽが生えただけでコイツラみたいな根っからの変態共より変態みたいな扱いをされ続けたのだ。


――なんか、やってらんねー…。

しみじみと自分の不遇を噛み締めながら、ちび不動「ゲン」を抱きしめる。
「ふどぉ…?」
大人しく抱かれながらも気遣いを欠かさないゲンの頭をぐりぐりと撫でてやる。
そして、風丸や染岡達にも忠告するかどうかを話し合っている三人を残して、ベンチで本当に父親だった源田のこと想うのだった。





 

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