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「ねえねえ、ちび不動くんって優しいよね。
この前私がタオルを抱えてたらリネン室のドア開けてくれたの。
あんな小っちゃいのにドア一生懸命開けてくれるんだもん。
可愛くってぎゅーってしちゃった」


いつものように練習中はちび不動をマネージャーに預ける為、タオルをたたんでいる三人に声を掛けようとしたとき、丁度話題が自分達のことで不動は一瞬声をかけるのを躊躇した。


「私、この前目金さんが両手に撮影機器を抱えてるときにも開けてあげてるの見ましたよ。
だからたぶん女の子だけじゃなく誰にでも親切なのかも…」

「ほんっと、不思議ですよね〜。
あの不動さんから、あーんな優しい子が産まれるなんて!」


聞き耳を立てていたものの、流れがおかしくなってきたので不動はわざとらしく大きな物音をたてる。
物陰から聞こえたガタっという音にマネージャー三人が振り向いた。
そして陰から姿を現した不動の姿を見て、あちゃ〜っという表情をする音無にニヤリと笑ってちび不動を押し付ける。


「コイツ頼むな」

「はいっ、お任せください!」

いつもどおりの不動に、さっきまでの聞きようによっては陰口に取れる自分の言葉を聞いていなかったのかと明らかにホっとした様子で音無が元気に応える。


「おい、ちゃんとこいつらと一緒にいるんだぞ。
フラフラどっか行きやがったら承知しねーかんな」

「ふどっ!」

不動は自分の周りをふわふわ飛んでいるちび不動をぱしっと捕まえると顔を近づけて注意した。
ちび不動は任せてくれと言わんばかりの調子で返事をする。
マネージャーは毎日繰り返される二人のやり取りをまたかと思いながらも微笑ましく見つめている。


「それから、そこのデコメガネの女にはあんま近づくな。
ドジが感染る」

「不動さん!!」

不動がいつものやり取りの最後に意地悪く口を歪めて付け足すと、音無は顔を真っ赤にして怒った。




この世で一人(一匹?)しか存在しないであろう、ちび不動はイナズマジャパンにすぐ受け入れられ馴染んだ。
男とヤったと暴露され、メンバーから今までとは違った意味で距離を置かれてしまった不動本人よりむしろ馴染んでいると言える。
外見は不動そっくりだが、中身は全く不動と異なり、温和で誰にでも親切な性格は皆に好かれた。
人語は話せずとも、こちらの言っている言葉は理解してるようで呼べばちゃんと反応が返ってくるのも可愛らしい。
人懐っこくフワフワと飛んで「ふどっ、ふどっ」と鳴く姿はまるで新種のポケ○ンだ。
不動本人を毛嫌いしている鬼道でさえ親しく話しかけているし、ちび不動も鬼道には特によく懐いている。


名前も不動が二人だけの時に密かに呼んでいるのがあるが、皆の前で呼んだことがない為まだないと思われていた。
皆は『ちび不動』とか『ちび』とか各々の好きに呼んでいた。
きん○まからホモ野郎とかママに渾名の変わった不動よりよっぽどまともな呼び名だと思われる。
というか不動の不憫さが偲ばれる。


ちび不動の父親のことは、もちろん皆から質問された。
でも不動はそんな野次馬根性丸出しの質問に答えるような人間では無かったし、父親が分からなくてもちび不動は皆から好かれていた。


こうしてちび不動のいる毎日は日常になっていった。



ちび不動がいるのが当たり前になったある日、不動は鬼道、佐久間と連携技の練習に勤しんでいた。
もちろん、ちび不動はマネージャーに預けて。


それは、たまたま連携に失敗して。
たまたまちび不動がマネージャーの手伝いでタオルを抱えていて前が見づらくて。
そんな偶然が重なった出来事だった。


皇帝ペンギン3号というかなりの威力を持ったシュートは的を大きくはずれ、丁度ふらふらと近くを飛んでいたちび不動のほうへ逸れていく。
このままじゃぶつかる…!!
そう思った瞬間不動が叫ぶ。


「ゲン!!」

その声にハっとして、すごい勢いで自分に迫ってくるボールの存在にちび不動はやっと気づいた。


はらはらと宙を舞うタオル。
……そして背後に浮かぶ狼の姿。


「…ビ、ビーストファング?」

シュルシュルと未だ手の中で勢いを残している程のシュートを止めたその技は、帝国の源田が習得している禁断の技ビーストファングそのものだった。

それは、不動が何も言わずとも、ちび不動の父親が誰かをその場に居る全員に思い至らしめた瞬間だった。



  

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