5
暗い表情のまま部屋に戻りベッドに倒れこむ。
不動と一緒に部屋まで付いて来たソレが、不動の頭の周りを心配そうに飛び回る。
払いのけても自分に纏わりついてくるソレが、忘れたい現実を不動に否応無しに突きつける。
「うぜぇんだよ。どっか行け!!」
カッとなって怒鳴りつけるとソレはビクっと体を竦める。
それでもソレは不動から離れようとしない。
飛び回るのをやめ、少し離れた所から心配そうに不動の顔を窺っている。
――こいつの性格、俺にもあの男にも似てねえ。
あの男…コイツの父親であろう男のことを考える。
エイリア石を持っているときに寝た相手は一人だけだった。
・・・影山零冶。
真・帝国学園の総帥だった男。
サッカーでのし上がる為、巨大な力を得る為にあの男に近づいた。
・・・自分の体さえ利用して。
――で、手にしたのがコレか。
自嘲気味に心の中で呟く。
利用するつもりで近づいたのに、結局は利用されて最後は一顧だにされず捨てられた。今目の前にいるのは狡猾で残忍な男と、そいつに利用されただけの馬鹿な自分の子。
自分は気づかないうちに憎い相手の子を身籠り、あろうことか産み落としていたのだ。
――ほんと、馬鹿みてぇ……。
自分で自分に腹が立ってくる。
行き場のない悔しさに知らないうちに涙が目じりに浮かぶ。
自分のことを暫く蔑んでいると、気がつくとちっこいのがいなくなっていた。
――本当にどっか行ったのかよ。
慌てて辺りを見回せば、ベッド横のサイドテーブルの上にソイツはいた。
自分の倍の大きさもあるティッシュと格闘しながら、なんとか一枚のティッシュを取り出す。
そして両手でぐしゃぐしゃと一纏めにすると不動のほうへと飛んできた。
何をするつもりだと、不審げに見守る不動の顔へとソレはティッシュをむぎゅっと押し付けた。
目じりをティッシュでゴシゴシと顔を赤くして一生懸命拭う様子に、不動は漸くソイツが自分の涙を拭こうとしてる事に気づいた。
一生懸命で、それでいて不器用なソイツなりの精一杯な慰めに、ささくれ立っていた不動の心は確かに潤うのを感じていた。
――コイツ、アイツみてー…。
どんなに自分が酷いことをしても、汚い言葉を言っても離れていかなかったアイツ。
見た目はカッコいいのに、間抜けでどこまでも優しいアイツ。
目の前の自分を慰めようと一生懸命なソレに、不動は日本にいるアイツの姿を重ねていた。
そして、ソレが生まれてから初めて愛しい気持ちでソイツに優しく触れた。
「お前の名前考えねーとな」
すぐに心に浮かんだ名前は日本にいるアイツの名前から一文字貰ったもの。
――思うくらい、いいよな?
その名前をつければ、あの男ではなくアイツが父親になる気がした。
「お前の名前は…」
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