4



目が覚めるとそこはジャパン宿舎での自室のベッドだった。
不動はぼんやりと意識を失う前のことを思い出す。


――トイレで痛くて、それから、……それから?

どうしてもそこから先が思い出せない。
不動ははっきりしない頭を大きく振る。
枕元にある目覚まし時計を見ると夕方の六時を少し過ぎたところだった。


――そういえば朝からほとんど何も食ってない。

今日は朝から腹の調子が悪くて、朝飯もバナナをほんの少し食べただけだった。
それにやけに喉が渇いている。


不動はのろのろとベッドから体を起こす。
立ち上がると自分の腰が随分重い気がした。
ふと見るとまだユニフォーム姿のままだ。
汗でべとついて気持ち悪い。


――あー、シャワー浴びてぇ…。

でも、それ以上に喉が渇いてしょうがない。
不動はユニフォーム姿のまま、ふらふらと喉の渇きを癒すため食堂へ降りていった。




夕方の食堂はいつも以上に騒がしかった。
ただでさえイナズマジャパンの喧騒に慣れない不動は、充分重かった気分をさらにうんざりとしたものにした。
ウザいと思いながらも、耐えられそうにない喉の渇きに食堂のドアを開ける。


「あ、不動!
もう体はいいのか?」

いち早く円堂がいつもの能天気な顔で聞いてくる。
当然無視して、不動は給水機に一直線に向かう。


「不動くん、見て見て!
私たち三人で洋服作ったんだよ!可愛いでしょ?」

そう言ってヘアピンのマネージャーが見せてきたのは、不動そっくりの15センチくらいの謎の生き物だった。


「な、なんだこれ!?」

ブーッと思わず飲んでいた水を勢いよく正面に居たマネージャーに吐き出し、ふわふわ浮かんでいるソレを不動は鷲掴みにした。
吐き出した水を真正面から浴びた木野は思いっきり顔をしかめたが、不動の目には入らない。
自分そっくりなソレは不動の力が強かったのか、痛そうに眉根を寄せる。


――い、生きてる?

苦しそうな様子にハッとして力を緩めると、ソレは嬉しそうに笑顔に変わった。
くるくる変わる表情はとても人形には見えない。
不動は謎な生物を両手で掴んだまま逆さまにしたり、いろいろな角度から観察しだした。


身長は15センチくらい。
身長に比べて頭の比率がやけにでかい。
マネージャーが作ったという簡単な服を着て、頭はしっかりモヒカンだ。
まるでデフォルメされて小さくした不動そのものだ。


「なんなんだよ、コレ?」

未だ掴んだままのソレを指差しながら誰ともなく不動は訊ねる。

「何って、不動の子供だろ?」

「はあ?」

さも当たり前のことのように言う円堂の言葉は、不動の理解の範疇を余裕でオーバーしていた。
というか物事は順序付けて説明しろ、結論から言うんじゃねー!と、不動は心の中で言葉足らずな円堂をイライラと罵った。


「な、壁山?」

いきなり話を振られた壁山が戸惑いながらも自分が見たことを懸命に話す。


「じ、自分が見たときにはもう血まみれのその子が宙にいて、不動さんは下半身丸出しで倒れてたんで〜…
た、たぶん不動さんが産んだんだと…」

しどろもどろな壁山の説明に不動は愕然とする。


――そ、そういえば思いっきり息んだ記憶が…。

壁山の言葉と一致する自分の記憶に、不動はがっくりと肩を落とし掴んでいたソイツも放してしまう。
手を放した途端、ソレは不動の頭の周りを嬉しそうに飛び回る。
まるで不動に会えて喜んでいるみたいだ。
その様子にさらに不動の落ち込みは増す。


「皆、集まっているか?」

そんなとき食堂に入ってきた久遠監督の声に緩んでいた空気が引き締まる。


「不動もいるな」

久遠はチラリと視線を投げ、不動の存在を確認した。


「この中でエイリア石を使用したことのある者」

そしておもむろにその場に居るメンバー全員にそう言って挙手を求めた。
おそらく黒歴史であろう出来事を思い出させるその言葉に、何人かが暗い顔でいやいやながらも手を挙げる。


「では、その中で男性と性交したことのある者」

表情も変えずに訊ねられた次の質問は純真な中学生には少々刺激の強いものだった。
一気にざわつき何人もが顔を赤くするが、手を挙げる者は一人もいない。


「不動、お前は?」

一人だけ名指しで質問され、不動は面白くなくてそっぽを向く。


「エイリア石所持中に男性と性交したことはあるか」

重ねて聞かれるが不動は何も答えない。
そっぽを向いたまま顔も合わせようとしない。
その様子に周囲のざわめきが一段と強まる。


「セックスしたか聞いているんだ」

――性交の意味ぐらい分かってるっつーの。
詰問に近くなった監督の口調に不動は閉口する。
確信をもって訊ねている様子がありありと伝わってくる。
不動の証言を取ろうとしているのであろう気配に、尋問じゃないかと不動は憤る。


「不動!」

苛立った監督の声に大きく舌打する。
はっきりと言質を取らないと監督は引きそうにない。


「……しちゃ、悪ぃかよ」

嫌々ながらも、不動の肯定の言葉に食堂は一気に大きく揺れる。
うわあとかホモだとかいう声に居たたまれなくなり、不動は皆に背を向ける。
そのまま食堂を後にしようとしている不動の背中に監督が声をかけた。


「不動、お前のしっぽは女性の妊娠の状態に近いと思われる。
たぶんエイリア石の影響ではないかというのが我々の推測だ。
子供が産まれた以上しっぽも徐々に無くなるだろう。
…相手の男性に連絡するかはお前の好きにしろ」


自分の子供だという目の前の新種の生き物の前ではしっぽがなくなるという言葉も、どんな説明も不動の慰めにはならなかった。
不動は返事もしないまま、まだ騒ぎの収まらない食堂を足早に立ち去った。



 

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