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しっぽが発覚してから約十日後。
悲しい事に不動はすっかりきん○まの呼び名が定着していた。
影でそう呼ばれている事は公然の秘密であり、勘の鋭い不動が気づかないはずもない。
不動にとって世の不条理を実感せざるを得ない十日間だった。


その日不動は朝から腹に鈍い痛みを感じていた。
腰もやけに重く感じる。
便秘かと思い薬を飲み、便通があっても便意に似た痛みがなくならない。

――なんだこれ…?

それは今まで経験したことのない種類の痛みだった。
ある一定の間隔で襲ってくるその痛みは、覚えのない種類ではあるもののそこまでの痛みではない。
結局すっきりしないまま、不動はいつもどおり練習に参加した。


だがストレッチが終わりパス錬、シュート錬と続くにつれ腹痛はどんどん激しさを増していく。
なだらかだった痛みの波は、高く、そして間隔の短いものに瞬く間に変わっていく。
朝の段階でこれぐらいなら大丈夫だろうと高をくくっていたその痛みは、ついには動けないほどになってしまう。


シュート練習の途中で順番が来ても動こうとしない不動に、シュートを受けていた立向居が怪訝そうに声を掛ける。


「どうしたんですか?き、…不動さん」

それでも下を向いたまま動こうとしない不動に、異変を感じた壁山たちが近づいてくる。


「大丈夫ッスか?き、…不動さん」


――こいつら、ぜってー俺のこときん○まって呼んでやがる。


いちいち名前を言い直している一年たちがイラつく。
蹴りの一つも入れてやりたいところだが、痛みでそれもできない。
それどころか声を出す事さえ出来ないのだ。
文句さえ言えない。


「どうしたの?き、…不動君」

ついにはマネージャーたちまで様子のおかしい不動の周りに集まってくる。
マネージャーさえ自分をきん○ま呼ばわりしてる事実にショックを隠せないが、それでも肩に優しく置かれた手に弱った不動は心を動かされた。
マネージャーに助けを求めるように顔を上げる。


ほんのりと上気し、汗ばんだ顔。
とぎれとぎれの息と、抑えきれない喘ぎ声。


周囲に集まっていた人々は不動の溢れんばかりに漂う色気に思わず顔を赤らめる。


「無駄な色気を出すな!」

バシッっと、いつの間にか来ていた鬼道が不動の頭を叩く。


「変なおもちゃでも付けているならさっさと外して来い。
春奈に悪い影響がでたら貴様をスマキにして日本へ送り返してやる!」

「おにいちゃん!」

死ぬほど痛いのに謂れもない事で叩かれた上にアホなことを言い合ってる兄妹に不動は本気で殺してやろうかと悩んだ。
だが今はそんな余裕など微塵も無い。
息をするのに必死で、ツッコミも否定の言葉さえ出せないのだ。


「そん…なんじゃ…ねーって。
 腹…いてぇー…」

痛みが治まる波も、今ではほんの短い間になっている。
その短いほんの少しの間に不動はなんとか声を出す。
ここでなんとか自分を襲っている激痛を訴えないと、このアホ兄妹にある事ない事言われて黙殺されそうな気がしたのだ。


「壁山君。
宿舎までき、…不動君を運んで」

「はいッス」

病人と分かった途端、秋がテキパキと指示を出し始める。
それでも一瞬きん○まと呼びそうになったのはそれだけ不動のあだ名が定着している証拠だろう。
不動にとっては悲しい事実だ。
だが秋の的確な指示により不動は壁山にお姫様抱っこで抱えあげられた。
一先ずは安心してもいいだろう。
普段なら絶対許さない姿にも、今は安堵でそれどころじゃない。


「わりぃ…んん…ッ、ト、イレに…」

壁山の頭にしがみつきながら不動が切れ切れに懇願する。

「は、はいッス」

その普段の極悪っぷりが為りを潜め、弱弱しい姿できゅっと自分の服を握り締めてくる不動の様子に、免疫のない壁山は顔が真っ赤だ。
すさまじいスピードで後ろからついてくるマネージャー三人を置き去りにして、宿舎のトイレまでひた走った。




トイレの個室に篭った不動は、今まで感じたことのない内側からの圧迫感を感じていた。


――体の中からコイツを出したい。


とても熱く、体の中を焼くソレ。
不動はソレを体から出すために思い切り息んだ。




「ああっ!」
「あっ、あっ」
「あーっ」

不動の入った個室の前で壁山は、中から聞こえてくる声に顔を赤くしていた。
先ほどの鬼道の言葉が頭にあるせいで、中から聞こえてくる不動の声はエッチな声にしか聞こえない。

――鬼道さんの言うとおりエッチなおもちゃ使ってるッスかね・・?


壁山が不埒なことを考えているとしばらくして中から個室の戸が開いた。
おそるおそる中を覗いてみると、そこには…。


ぐったりと便器に凭れ掛かっている不動。
……それと不動そっくりのふわふわと宙に浮いている15センチくらいの見たことのない生き物がいた。




 

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