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「今日の練習はここまで。
次の対戦相手の過去の試合映像が届いたので、今日は夕食後に談話室に集まるように。
…それから不動。
お前は着替えが済んだら私の部屋に来るように」


それは、セクハラ騒動の次の日の練習後。
いつもどおりの練習終了の挨拶の際に監督は付け足すように不動の名前を呼んだ。

――ちっ、昨日といい一体なんだよ。

呼び出しをくらって面白くない不動は返事もせずにそっぽを向いた。
それでもシャワーを浴び着替えを終えた不動は、仕方なく久遠監督の私室を訪ねた。


「不動です」

「…入れ」

中に入ると、椅子に座り偉そうに腕を組んでいる監督の姿が目に入る。
そしてすぐ横には整えられたベッド。
…やけに部屋が狭く感じる。


「なんの用っすか?」

内心の緊張を悟られないように不動はわざとぶっきらぼうな口調を選んでいた。

「…。
不動。お前、腰に何か重りのような物を着けてトレーニングをしているか?」

「…はあ?してないっすけど」

予想外の質問に不動は顔を意図せず顰めていた。
質問の意図がさっぱり掴めない。


「では、貞操帯は?」

「……」

――て、貞操帯?
さらに質問が謎めいてきて不動は思わず絶句してしまう。


「そうか、分かった」

何も答えていないのに何故か納得した様子の久遠監督。
ますますもって不動には何が何やらさっぱりわからない。
続く沈黙にもう帰ってもいいものかの判断さえつかない。
いい加減不動がうんざりとしてきた頃、久遠監督がやおら立ち上がり不動の腕を掴んだ。


「…こちらへ来い」

ぐいっと腕を引かれた先はベッドで、素行が良いとはお世辞にも言えない不動は咄嗟に思った。

――ヤ、ヤられる!!

身の危険を感じた不動は空いてる方の手でベッド脇のデスクを必死に掴んで抵抗する。
頭の中で昨日のセクハラ行為や、先ほどの貞操帯発言、目の前のベッドがぐるぐる回る。


「てめえ、こんなのことしていいのかよ!?
あれか、枕の強要か!?
試合に出たけりゃ、てめえと寝ろってか!?
ふざけんじゃねーぞ!!」

「ふぅ、…いいから来い」

思いっきり抵抗するが所詮は子供。
鍛えられた大人の力には敵わず、ベッドの上に不動の体は放り投げられる。
逃げる間もなく背後からうつぶせの状態のまま、手を頭上で押さえつけられる。


「やめ…ッ!」

思いっきり体を捻るが、押さえ込まれた手は外せない。

「少しは大人しくしろ」

急に耳元で囁かれる大人の低い声。
自分のすぐ後ろに覆いかぶさるように存在する自分以外の熱量に、否が応でも甘い痺れが不動の全身を走る。

不動の力が弱まったその瞬間、ペロンとジャージを下着ごと剥かれ、お尻が丸出しになる。


「てめえ、いきなりかよ!?
いい歳してがっついてんじゃねーよ!!
前戯ぐらいしろよ、このへたくそがっ!!」

うつ伏せの状態で足をバタつかせて不動が罵る。
はっきり言ってその罵りの言葉は拒絶してるんだか、OKなんだか正直微妙だ。
だが、いつまでたってもそれ以上監督は不動に触れることはない。
押さえ込まれていた手もいつの間にか離されている。


何かがおかしいと気づいた不動がちらりと監督を窺うと、顎に手を当てて何やら考えこんでいる。
どう見てもこれからレ○プしようとしている変態親父には見えない。
また混乱してきた不動が監督に声をかけようとした時、ドアが遠慮がちにノックされた。


「すみません、監督」

続けて聞こえたのは円堂の声。
不動は慌ててズボンを上げて衣類を整えた。


「皆もう食事も終えて集まってるんですけど、まだですか?」

「ああ、今行く」

動揺している不動に対して、監督は全くの平常運行のようだ。
さらりと返事をしてドアを開けると、そこには円堂だけじゃなくイナズマジャパンのメンバー(含むマネージャー)の全員が狭い廊下に集まっていた。

狭い廊下にひしめき合う中学生の集団には流石の監督も僅かに目を見張る。
幾ばくか表情を顰めた監督に言い訳するように円堂が言う。


「なんか揉めてるような物音が聞こえたんで気になっちゃって」

その言葉に皆に聞かれていたのかと不動は頭を抱えた。

「ああ、大丈夫だ」

一方監督の方はというと全く気にしている様子はない。
それどころか丁度いいとばかりに皆を見渡した。


「皆、聞いてくれ」

そこで一呼吸置くと、その場に居る全員が予想もしていなかった言葉を口にした。


「不動にしっぽが生えた」


…え?
ええー!?

一同は驚愕の声を上げる。
中でも不動は自分でも気づいていなかったから一入だ。

――セクハラの方がマシだった。

ショックを受ける不動に監督がさらに追い討ちをかける。


「原因がわかるまで
不動は当分試合には使わないつもりだ」

――どっちにしろ、いつも使ってねーじゃねーか


「それから円堂。
これから私は日本にこのことを連絡しなければならない。
この後のミーティングはお前に任せる。
しっかり相手チームの特徴を掴んでおくように」


いつもと同じように最低限の必要事項のみを告げると、監督はなんでもない様子で立ち去ろうとする。
だが、途中で何か思い出したように立ち止まり振り返る。


「ああ、それから不動。
もう少し中学生らしい言動を心掛けるように」

不動にとどめの一撃を与えると今度こそ本当にいずこへと行ってしまう。


騒動になるのを抑えてくれるだろう監督が去り、不動の周りにはしっぽが生えるというありえない事態に興味深々のイナズマジャパンのメンバーが山のように残された。


――どーすんだ、これ…。

考えたくもない状況に、不動は途方にくれたようにもう一度ベッドに倒れこんだ。
案の定監督がいなくなった途端、メンバーはわらわらと部屋に入ってきて不動を取り囲む。
その中でも特に好奇心旺盛な音無が我慢できないといった様子で一番に手を挙げた。


「不動さん!」

「…なんだよ、デコメガネ」

最早起き上がる気力もなく、不動はベッドにうつぶせに倒れたまま答えた。


「しっぽ是非見せてください!!」

「……」

チラリと不動が顔だけ横にすると、目をきらきらと輝かせてメモ帳を手にした音無の姿が目に入る。
そのテンションの高さに不動はさらに気力を奪われた。


「それは駄目だ」

音無の提案を力強く却下したのは呆れて何も言えない不動では無かった。
兄である鬼道だ。

「それはコイツの臀部も一緒に目に入る可能性が高い。
春奈の目が腐る」

――く、腐るって…。

到底認められないとばかりに首を振る鬼道にまたも不動の気力が削られていく。


「えー、見ちゃ駄目なのかよ。
皆だってしっぽ見たいよなぁ!」

なあ、と円堂が皆を見渡ながら言う。
頷き合うメンバー達。
そして円堂の言葉には甘い鬼道…。
不動は嫌な予感が胸に渦巻き、防衛本能で勢いよく立ち上がった。
だが、イナズマジャパンが誇る司令塔はそれよりも早く行動を起こしていた。


「…壁山。土方」

鬼道が腕を組み重々しくメンバーの中から二人の名前を呼ぶ。

「はいッス」
「おう」

「…やれ!」

でかマッチョ二人の名前に不動は慌ててベッドから逃げようとするが時既に遅し。
人間離れした巨体二人にすぐさまベッドにうつ伏せに押さえつけられる。
しかもどこから出したのかゴム手袋をはめながら鬼道がベッドに近づいてくる。


「佐久間。
すまないが春奈の目を隠していてくれ」

「わかった」

一の子ぶ…ゲフンゲフン!
…もとい佐久間が鬼道の指示通り音無の背後から目隠しをする。

「お兄ちゃんズルい!」

何とか見ようと音無が体を揺するが鬼道に忠実な佐久間の拘束はそう簡単に剥がせそうにない。
穢れ無き中学生女子が異性の臀部を凝視するという危惧すべき事態は、佐久間のお陰で無事回避出来そうである。


「…いくぞ」

そんな中、鬼道の声に皆の間に緊張が走る。
ゴクリ。
皆が固唾を呑んで不動のお尻に注目する。


ペロン。
ジャージからお尻と共に出てきたのは、濃い目の産毛が生えたこぶし大の瘤状のモノ。
到底「しっぽ」という可愛らしい響きに相応しいとは思えない形状のものだった。


「……」

一同、その予想外の形に一瞬言葉をなくす。


「しっぽというよりきん○まじゃねーか!」

だがそんな綱海の一言で沈黙は一気に爆笑に変わる。


「そっか、なんかに似てると思ったら、き○たまかぁ。
すっきりしたぜ、綱海!」

円堂がもう問題は解決したとばかりに綱海と肩を叩きあいながら部屋を出て行く。
そっかあ、き○たまかあ!
尻にきん○まかあ!
などと口々に言いながら他のメンバーも和やかな雰囲気で彼らの後に続く。


最後に壁山と土方を従えた鬼道が部屋を出る際、不動を一瞥した。


「いつまでも汚らわしいモノを出したままにするな。
早くしまえ」

――お前が出したんじゃねーか!


後にはいつまでもお尻を出したまま、うつ伏せでがっくりヘコんでいる不動だけが残されていた。
不動の心からのツッコミは誰にも聞かれる事は無かった。



  

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