サクランボ色の恋情 | ナノ
唐突だが、僕、花京院典明は恋をしている。
それも人生で初めての――つまりは初恋を。
スタンドが見えない人間とは友人にすらなれないと考えていた僕が恋だなんて、笑われるだろうか。
けれど、それでも構わない。誰になんと言われようが気にもならない。この気持ちは、もう胸の中に閉じ込めて誤魔化すことなど出来ないところまで来ているのだ。


今日も隣の席の名前さんを教科書の隙間から盗み見る。
本当は声を掛けて言葉を交わしたいけれど、そこまでの勇気がでない。あと一歩のところで言葉が喉につかえてしまうのだ。
言いたいことなら数え切れない程ある。その髪型可愛いねとか、筆箱に付いているキーホルダーのキャラ僕も好きなんだとか、今日の放課後空いてないかなとか、…君が好きなんです、なんて。

少し世間話をするだけなのに、肝心なところで勇気が出せないなんて、僕はなんて駄目な男なのだろう。
でも、今はこうして名前さんを眺めるだけでも幸せなのだし、良しとしようかな。


ああ、今日も可愛いな名前さん。

「……!」

――どうしよう、目があった!

じろじろと不躾に見すぎたのが不味かったのか、見ていることを彼女に気付かれてしまった!
まともに会話すら交わしたことが無いのに、変な人間だと思われてしまったらどうしよう。もっと最悪なのは変態だと思われる事だ。どうしよう、どうしよう、承太郎ならこんな時どうするだろうか。
彼女に気付かれてから慌てて目を逸らしたのも不味かったかもしれない。これじゃあ言外に『名前さんを見てました』と言っているのと同じじゃあないか!

「花京院君、」
「(あああ、どうすれば良いんだ!)」
「花京院君ってば」
「ははは、はい!!?」
「あはは、そんなに驚かなくても良いのに」

名前さんが僕を見て笑っている。どうしよう、絶体絶命のピンチ中なのに凄く可愛い…。

「な、何でしょう…」
「さっき私を見てるみたいな気がしたから、どうしたのかなって思って。勘違いだったらごめんね?」
「いえ…」

こんな場合は何と言って誤魔化せば正解なのだろうか。これがゲームならば下に選択肢が出ている筈なのに、残念なことにこれはどこまでいっても現実だ。

「…えぇと、その、特に何も無いんです…すみません」
「ううん、謝る必要なんて無いよ。何も無いなら良いの」

こんな僕の失礼な答えにも名前さんは笑顔を絶やさない。

…これはもしかしてチャンスじゃあないか?そうだ花京院典明、心を決めろ。ここで勇気を出さないなら一体何処で勇気を出すんだ?もう名前さんから話し掛けてくれるような事は無いかもしれない。今は眺めているだけで良いもしれないが、これからは?高校を卒業してからじゃあもう遅いんだ。取り返しがつかなくなっても良いのか。
自分を奮い立たせ、手にぐっしょりとかいた汗をズボンで拭き取る。

「…あの、名前さん、」

勇気を振り絞って発した声は、存外頼りないものだった。

「うん?」
「き、今日…一緒に帰りませんか。…あ!でも、嫌なら良いんです」
「ううん、嫌じゃないよ。一緒に帰ろ」

「ほっ本当ですか!!」授業中にも関わらず立ち上がって歓喜の叫びを上げた僕に、教師が投げたチョークが刺さった。




ピュアなラブストーリーが書きたい!と思い、では相手は誰にするかと考えたところ花京院に白羽の矢が立ちました。
チェリー臭い花京院君を目指して頑張りたいと思います。
余談ですが、花京院の敬語は好きな子の前で緊張してるってのもあるし、夢主と接するのに慣れてないからタメでは話しにくいってのもあって敬語が抜けないって設定だったりします。つまりはコミュ障です。 / 140122
- ナノ -