ミセス・プレジデント | ナノ
「大統領、睫毛にゴミが…」
「え?」
「そのまま停止の世界です。すぐに取りますから」
「分かった」

書類を捲る手を止め、マイクの方へ向き直る。
書類に集中していたせいだろうか、全く気が付かなかった。

「目を瞑って頂けますか」

マイク・Oに言われた通り、瞼を下ろした。
真っ暗闇の世界で、マイクの手の温もりを頬に感じる。私が動かないようにと固定しているらしい。次いで睫毛に何かが当たる感触。言わずもがなマイクの指だろう。ゴミを取るのに少し苦戦しているのか、中々離れようとしない。

「申し訳ありません、大統領…中々掴めない世界でして…」
「そう焦らなくて良い」

お陰で目も休まるしな、と笑えば、マイクも笑ってくれた気配がした。

「取れました」というマイクの声と、執務室の扉が開かれたのはほぼ同時だった。バァンと派手な音の次に聞こえたのは、「大統領閣下!会いに来まし、た…」というスカーレットの声。

「ああ、これは大統領夫人…」
「スカーレット?どうした?」

何故か私達を凝視したまま押し黙るスカーレット。何だ?何故固まっている。しかもよく見ると、ワナワナと肩を震わせているではないか。


――ハッ!!
分かった!だが、まずい!この感じはスカーレットは何か勘違いしているな!この状況、端から見れば確かにおかしく写るだろう。スカーレットのことだ。差し詰めマイクに向かって目を瞑っている私と、私の頬に手を添えるマイクを見てキス待ちだと思ったのだろう。

暫くして口を開いたスカーレットから発せられた言葉は、「マイク・O…?夫に何をしているの…?」と普段は聞いたことの無い程に暗く低いものだった。
やはりスカーレットは勘違いしている!このままでは私もマイクも彼女に殺されかねない!何とかしなくては…!

「えっ?大統領夫人…?」

マイクは幸か不幸かまだスカーレットの様子に気が付いていない。

「スカーレット、聞きなさい。私たちは君が考えているような爛れた関係ではない」
「では何をしていたと言うの…!?そんなに近付いて!キスしようとしていたんじゃあなくって!?」
「だから違うと言っているだろう!私たちはそんな関係ではない!ただの上司と部下だ!」

漸くマイクにもこの状況が理解出来たらしい。あわあわとしながらスカーレットに「ご、誤解の世界です夫人!」と半ば叫ぶようにして訴えかけた。

「あなたは黙ってて!これはあたしとフラニーの問題なのよ!」
「し、しかし…!」
「スカーレット、落ち着け。何度も言うが誤解だ。良いか、マイクは私の睫毛に付いていたゴミを取ろうとしてくれただけなのだ。ただのそれだけ」
「嘘だわッ!!」

駄目だ、スカーレットは冷静さを失っている。
こうなれば、最終手段だ。人前では恥ずかしいが…。

「…スカーレット、一度しか言わないからな。…私が愛しているのはお前ただ一人だけだ。それだけでは不安か?それとも、本当に私がマイクと浮気をするとでも?君という愛しい人が居るのに?」

我ながら小っ恥ずかしい台詞を吐いて、呆けた顔のスカーレットの頬に口付けを一つ。

「え…今…」
「スカーレット、私を信じて欲しい。君に私しか居ないように、私にも君しか居ないのだ」
「フラニー…ええ、分かりました。疑ってごめんなさい…あたし、頭を冷やしてくるわ…」

そう言ってスカーレットは静静と去って行った。
ふう…。これで一件落着だな。死傷者が出なくて良かった。

マイクも大丈夫だっただろうか?と彼を見ると。

「大統領と夫人の愛を再確認しました…!やはりお二人の愛は素晴らしい世界です」

半泣きで感激していた。ちょっと引いた。


・・・

夢主が大統領に成り代わったお陰でスカーレットのヤンデレ度が加速しております。

131225
- ナノ -