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突然だが、俺のカノジョであるナマエはドMだ。そして少し頭がおかしい。
まず、朝の挨拶が『おはよう』ではなく「あっ仗助!いっちょ踏んどく?」で始まったらどうだろう。あっこのドMやばいな、となるに決まっている。つまりこの時点でナマエの脳内が終わってるとしか言い様がない。脳内世紀末だ。着いていける訳がない。

そんな彼女と本日デートをする。
何もこれが初デートな訳じゃあないが、気恥ずかしさが完全に抜けていないからいまだに少し緊張する。ナマエは見た目はずば抜けて素晴らしいのだ。そんな女の隣を歩くのだから、緊張するのだって仕方のないことなのだ。



ナマエと合流してからすぐに喫茶店にでも行くかという話になり、ナマエおすすめの店へとやって来た、までは良かった。しかし、お昼時に来たのがそもそも間違いで。 休日ということもあり、デート中のカップルや主婦連中でごった返していて座る席すらない状態だ。

「あ〜あ。やっぱこの時間は混んでんなあ…。なあナマエ、」
「仗助、私が椅子になるから座って良いよ!?」
「どうしてそうなった!?」
「机にもなるし、熱いのぶちまけて貰っても良いんだよ!?」
「そのキラキラした瞳此方に向けるのやめろ馬鹿」

椅子が一つとして空いていないこの状況ですら自分の利益に変えようとするのだから、ナマエは凄い。素直にそこだけは尊敬する。ただ、問題があるとすれば、此処が公衆の面前で、且つ俺はそんなプレイをしたくないってことだな。
席が無いんじゃあ此処に長居したって仕方ない。さっさと他を当たろう。

「やっぱり違うとこ行こーぜ?待っててもキリねぇよ」
「うーん、椅子になるのに残念だなあ。それじゃあ私の家に来る?実はこの近くなんだ。今日は親も居ないしゆっくりできるよ?」
「えっ!」

思いがけないナマエからの申し出。断る理由がない。むしろ行きたい。何せ一度も行ったことのないナマエの家へ行けるチャンスなのだ。これを利用しない手は無かった。


***


「ここが私の家だよ!」
「へえー」

ナマエに案内された家は大きくも無ければ小さくもない、親二人子一人が住むには丁度良い大きさの一軒家だった。外観は嫌味がなく、かと言って立派すぎるでもなく、本当に当たり障りの無い感じだ。
家の中も同様だった。玄関には綺麗な花が花瓶に生けられて飾られている。広すぎもせず、また狭くもない玄関で靴を脱ぎ、家へ上がる。今更ながら初めて上がるカノジョの家に緊張して変な汗をかいてきた。

「はい、スリッパ」
「…おう、サンキュー」
「あっ、スリッパの前に私を踏んどく?」
「踏まねえよ!」

何処であろうと変わらないナマエ。そんな彼女と話している内に緊張も解れてきた。
まさか俺の緊張を解そうと思って馬鹿なことを言ってくれたのだろうか…?いや、まさかだよな。ナマエは何時もこうだし、まず空気が読めるタイプじゃあない。

「…あ!そうだ!私ね、彼氏を家に連れてきたらやってみたいことがあったの!」
「やってみたいことォ?」
「そ!仗助はそこに立ってて!」
「はいはい」

ナマエに言われた通り、玄関から上がってすぐの場所に立つ。すると、ナマエはやけに芝居がかった動作で言葉を発した。

「仗助おかえり!今日もお仕事お疲れ様!…ご飯にする?お風呂にする?それとも私を…ちょ・う・きょ・う?」
「ご飯で」
「…チッ」
「舌打ち!」

えっ何本気だったのか!?だとしても調教なんて選ばねぇよ!!

「はあ〜調教が良かったけど仕方ないからご飯作るね」
「えっ、ナマエが作んのか!?」
「何その反応。私だって料理くらいするよ!包丁で"うっかり"指を切ってしまった時の快楽が忘れられなくてね…」
「インスタントにしよう」

自分の快楽に忠実なナマエのことだ。料理が出来る頃には何もかもが真っ赤に染まっているに決まっている。誰がそんな料理を食べたいと言うのか。それと比べれば味気ないカップラーメンすら絶品だと言える。

「えー。インスタントなんて体に悪いよ。それより私が何でも作るよー?但し、包丁を沢山使う料理にしてくれると嬉しいなあ」
「俺はカップラーメンで良いぜ」
「えー!カップラーメンン!?…じゃあ、せめてラーメンに入れるネギ切るね」
「頼むからやめろ」

真っ赤なネギなんて食えたもんじゃない。例え好きな女の血液だろうが、人の体液がかかった物なんて食えるか。

何とかナマエを説得し、包丁を使わせることは断念させた。あとはカップラーメンに湯を注ぐだけだが、これも熱湯をわざと溢し自分にぶっかけかねないので、俺が立ち会いのもと湯を注がせた。ナマエに言わせれば火傷は傷が残りすぎるからやる気は更々無いそうだが。そういうことはさっさと言って欲しかった。


「はい、3分経ったよ!私は床で食べた方が良いかな?」
「ちゃんとテーブルに着いて食べましょうね〜〜」

残念そうなナマエをテーブルにつかせ、俺もその前に座る。
「いただきます」の掛け声の後、二人で揃ってズルズルとラーメンを啜った。時折ナマエから「あちっ」という少し嬉しそうな声が聞こえてくるが、それは無視することにする。

「う〜ん、たまにはインスタントも悪くないね」
「だろォ?もう包丁を使おうとするなよ」
「うん。でもミキサーならいいかな?」
「ミキサーで何する気!?」

ナマエは相変わらず本気なのか冗談なのか判断しかねることばかり言ってくるが、それでもこうしてナマエと二人で居るだけで体が暖かくなるような幸せに包まれる。
いつまでもこんな幸せが続けば良いのにな、なんて柄にも無いことを祈った。


(14/08/03)
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