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※キャラ壊れがとても酷いのでご注意を。全員もれなく馬鹿です。


ナマエは決して体が強い方ではなかった。
むしろ病気がちで、まともに学校へ行けない程である。ただ、生に対する執着心だけは人一倍強かった。
そんな彼女が承太郎と出会い、スタンド能力に目覚め、DIO打倒の旅へ着いていく事になるのはきっと定められた運命だったのだろう。


さて、今回も敵スタンド使いと対峙し、身も心もボロボロになったジョースター一行は早めに休もうと近くの安宿に宿泊を決めた。
部屋割りはジョセフ、承太郎の祖父孫ペア。そしてアヴドゥル、ポルナレフのペア。最後に花京院とナマエがペアになった。
同い年のナマエと花京院は出会ってすぐに打ち解け、この旅を通してより仲を深めあった。つまりは親友と呼べる程に仲良くなったのである。そんな二人が同室とあれば自ずと話は弾み、止まる所を知らないのも自然の摂理であった。

「でね、その時のポルナレフったら本当に可笑しかったの!あ〜花京院にも見せたかった!」
「僕も見たかったよ。そのポルナレフの醜態を」
「あ、でもまた見れるかも!……うっ!ゲホッ、ゲホッ!」
「ナマエ!大丈夫かい?」

激しく咳き込むナマエの背を花京院が優しく擦ってやる。

「ゲホッゲホッ…有難う、花京院…もう大丈夫。あ、血だ。でね、さっきの話の続きなんだけど…」
「ねえおかしくないかな!!!??今血吐いたんだよね!?大丈夫じゃないと思うんだけどそれは!!」

吐血したというのにさらっと流そうとするナマエに花京院は思わず突っ込んだ。
しかも流すばかりか気にも止めず、掌にべったりと付着した血液を拭き取るナマエに花京院はあんぐりと口を開けて見ていることしか出来ない。

「あれ?花京院って血見るの初めて?あのね、これが血」
「分かってるよそれくらい!!だからこそ心配しているんじゃあないか!君、今吐血したんだぞ!?」
「はは、花京院ってば大袈裟だなあ。人間生きてれば血くらい吐くよ」
「早々吐くものじゃあないけど!!?」

大丈夫大丈夫、と笑いながらまたもや血を吐いたナマエを前に花京院の方が卒倒しそうになった。


***


――翌日。
昨夜あれ程吐血したにも関わらず、ナマエは元気ハツラツで、故にポルナレフとアヴドゥルと共に朝食の買い出しへと駆り出された(一方花京院はぐったりしていた)。


「何買うよ?」
「ジョースターさんは好きなものを買って良いと仰られていたが…」
「なあ、ナマエは何が良い?」

ポルナレフとアヴドゥルの二人だけでは良い朝食が思い付かず、一歩後ろを歩いていた筈のナマエに意見を仰ごうと振り返った。しかし、そこにナマエの姿はなく、約3メートル程先に倒れた人影が…。
ポルナレフとアヴドゥルは顔を見合わせた後、急いでその人影に駆け寄った。

「ナマエッ!?」
「大丈夫か!?」

その人影は案の定ナマエ本人。血の気が完全に失せて白くなった顔を見てポルナレフとアヴドゥルも顔を青くさせた。心臓が尋常ではない早さで脈打ち、嫌な汗も滲んでくる。
ポルナレフが慌てて呼吸確認をするものの――

「息止まってるうううう!!!どどどどどうすりゃあいいんだこんな時ッ!!」

息をしていないナマエを前にしてポルナレフは完全に冷静さを失っていた。頼みの綱であるアヴドゥルさえ、唇を戦慄かせ普段の冷静さが失われつつある。それでも何とか脳を動かし、ポルナレフへと指示を与える。

「じ、人工呼吸だポルナレフ!!」
「えっ!?お、俺が!?」
「そうだ!早くしろ!」
「だが、相手は年頃の女の子だぜ?俺なんかが唇奪って良いのかな…」

これがファーストキスかもしれないし、と余計なことを心配するポルナレフにアヴドゥルがキレた。

「そんな悠長なことを言っている場合じゃあないだろう!!?…ええい退けッ!私がやる!」
「はっ!?いや!やっぱり俺がするからアヴドゥルは引っ込んでろよ!」
「言い合っている場合か!?ナマエは一刻を争うんだぞ!?」

ギャーギャーと死体(?)を前に喧嘩を始めるポルナレフとアヴドゥルの回りにはいつの間にか人だかり。何だ何だ、と物珍しそうに三人を見物している。
そんな喧騒の中、危篤状態だと思われていたナマエが不意にむくりと上半身を起こした。それに驚いたのは勿論ポルナレフとアヴドゥルだ。目を真ん丸にしてナマエを凝視している。

「ん……?あれ…?ここは……」
「嘘だろ復活したよ!!?」
「あ、ごめんね。私寝てたね」
「いや死んでいたが!!?」

アヴドゥルの言葉にナマエは首を傾げるばかりだ。
死んでいた?寝ていただけなのに、アヴドゥルは何を言っているのだろう?アヴドゥルが冗談を言うなんて珍しい。

のんびりと伸びをするナマエは真相に辿り着くことがないのだろう。未来永劫に。


***


あれから数日が経った。
敵スタンド使いとの戦いは熾烈を極めるばかりで、倒せども倒せどもキリがない。大元のDIOを叩かねばどうにもならない状況であった。
ナマエも何人ものスタンド使いに襲われ、いつも以上に体はボロボロ。歩くのすら困難なほどに疲労困憊で、承太郎におぶって貰っている始末である。

「承太郎、ごめんね。私重いのに…」
「重い?ナマエで重かったら俺らはどうなるんだ」

精一杯のフォローをしてくれているつもりらしい承太郎にナマエは思わず吹き出してしまった。それを「笑うんじゃねぇ」と咎める承太郎にナマエは「ごめんごめん」と形ばかりの謝罪をする。

ジョセフ達と一刻も早く合流する為に承太郎は歩みを早める。
ふと、ぽつりと頬に水滴が当たった。雨だろうか?こんなに空は晴れているのに。

「…ン、なんだ。雨か?」
「いや、私の鼻血」
「!?」

承太郎はぎょっとして、己の頬に付着した液体を拭った。赤い。成る程鼻血だ。
ナマエを見ると自分のハンカチで鼻を押さえてはいるが、ハンカチが血を吸うだけ吸って限界を迎えているので止血の役割は果たしていない。

「ハンカチで押さえるんじゃなくてティッシュ詰めてろ!!!」
「ティッシュさっき全部使っちゃって無いの」
「ナマエ、お前は馬鹿なのか!!?」

承太郎は一旦ナマエを下ろし、持っていたポケットティッシュを彼女の鼻に捩じ込んだ。

「あいたた、容赦ないな…私女の子なんだよ?」
「んな事言ってる場合か。…よし、これで良い。さっさとじじいの所に戻るぞ」

もう一度ナマエをおぶり直し、承太郎は帰路を急ぐ。

「…でも、鼻血出てよかったかも」
「あ?」
「これで少しは体重が減って、承太郎にかける負担が減るかなって」
「…もう返す言葉も思い付かねーぜ」

呆れてものが言えないとは正にこの事だと承太郎は思った。兎に角ポジティブ過ぎる。
それにしても、尋常じゃない量の出血をしている筈なのに、ナマエという人間はどれだけ丈夫なのか。


***


承太郎におぶられ帰ってきたナマエは直ぐ様自室に放り込まれ、ベッドに寝かされた。彼女に出された指示はただ一つ。『絶対安静』。それを破ればもれなく日本へ強制送還の運命が待っている。
DIOを倒さぬ内に日本へ帰されたくないナマエは、その言い付けをしっかりと守り、ベッドに入ったまま上半身だけを起こしてベッドサイドのテーブルの上で何かをしている。彼女の見張りを任されたイギーはただその様子を眺めていた。

「…あっ!」

小さく漏れた声。イギーはその声に反応してナマエを見た。

「やっちゃった…薬落としちゃったよ」

何をしているのかと思っていたら、どうやら本日飲まなくてはならない薬を用意していたらしい。
やれやれ、一体どれだけの量を飲んでいるんだとイギーがベッドサイドのテーブルを見てみると…有るわ有るわ、粉薬から錠剤、カプセルに至るまでざっと10種の薬の山が。

「…あ、そうだ!イギーは犬だから鼻良いでしょ?落ちた薬見付けてくれない?こんな感じの錠剤なんだけど…」

それだけ薬を飲むのだ。その山の中から高々錠剤一粒を落としたところで何か支障はあるのか。イギーが口を利ければそう言っていただろう。
それを汲み取ったのか否か、ナマエはケロっとした様子で答えた。

「落ちたお薬が一番重要でね、飲まないと最悪死ぬの」
「!!?」

何てモン落としてんだ!!!あとそのテンションで言うのはどう考えてもおかしくないか!!?
イギーはそう思いながらも、己の嗅覚を最大限に活用し、ベッドの下に転がっている錠剤を見付けた。そして埃だらけベッドの下に潜り込み、錠剤をくわえてナマエの元へと戻る。
ベッドに飛び乗ったイギーがペッとくわえていた錠剤を吐き出すと、ナマエは嬉しそうな声をあげた。

「…わ、イギー埃まみれ!わざわざベッドの下に潜って薬を探してくれたの…?有難うね、命の恩人だよ君は」

よしよし、とイギーの身体中を撫で回すナマエ。イギーは満更でもない気分になったが、『さっさと薬を飲め。あと撫でるならもっと右にしろ』と思った。


***


漸くこの時がやって来た。何年にも感じられた長い長い旅は此処で終わりを告げようとしている。
眼前に広がるドス黒い妖気を醸し出す館。それが目的地、DIOの館だ。
散歩していたらたまたま見付けた、という間抜けな理由でナマエとイギーに発見され、此処まで案内された。

「よし、さっさとDIOを倒そう!」

ナマエの気合いも十分。全員を置いて単身でも特攻する勢いだ。しかし、それをジョセフが引き止めた。

「いや…ナマエちゃん、意気込みは良いんじゃが…それ…」
「?」
「その腕から伸びてる管とその液体…」
「点滴のことですか?」
「うん、それおかしくない?」

点滴をぶら下げたまま戦う気満々のナマエは首を傾げた。おかしいって何処が。…あ、もしかして。

「ああ、何時も打ってる点滴と違うってとこですか?それなら大丈夫です。今日はDIOを倒すってことで、違うの打ってるので」
「そういう意味じゃなくてな…それより毎日打ってたの」
「はい」

何時もと変わらぬ笑顔で答えたナマエ。その顔は死人のように白い。しかし見た目に反してナマエは元気があり余っているようだった。その元気が何処から来るのかは謎だが、もう決して若いとは言えないジョセフからすると羨ましい限りである。
けれど、元気そうにしていても病人は病人。とてもじゃないが、DIOを相手に善戦出来るとは考えられない。そればかりか対峙してものの数秒で死体として地面に転がることになるだろう。

「どうしたんですか早く行きましょう!」無駄にはりきるナマエにジョセフが出した結論は――「ナマエちゃんだけお留守番じゃ」。

「ええっ!?」
「そんな状態で戦えるとは思えんからな。悪いが、君には此所に残ってもらう」
「そんな…!私だって皆の役に立ちたいんです!DIOを倒したいんで…ガフッ」
「言ってるそばから血!!!」

言わんこっちゃない、とジョセフが口許に飛び散った赤を拭ってやる。

「DIOを倒したいなら尚更待っていなさい。でないとわしらが集中出来ないんじゃ…」
「じゃっじゃあ見てるだけ!影から見てるだけ!」
「留守番」


***


留守番と言い渡されたものの、結局ジョセフの言い付けを守らずに外に出てしまったナマエ。これからジョセフ達に見付からないように細心の注意を払ってDIOを探さねばならない。しかし、そう簡単にDIOを見付けられるのならば苦労はしない。現実は早々上手く事が運んではくれないのだ。そう思っていた矢先――。

「DIOだ!!」

普通に発見した。
それはナマエが宿泊先を抜け出して数秒後の出来事であった。
幸いジョセフ達の姿は見えない。見付からずに済んだようだ(抜け出して数秒しか経っていないのだから当たり前だが)。

「DIO!待ちなさい!」
「…ム、確かお前はナマエ…だったか。姿が見えないと思ったらこんな所に居たのだな」
「此処で会ったが100年目!貴方を倒して、私達は日本へ帰るッ!!」
「フン、威勢だけは良いようだな。良いだろう。やれるものならやってみろ。その点滴のスタンドでな」
「いや、これスタンドじゃなくて本物。私今輸血中」
「(輸血中!?)」

DIOは気取られまいと、瞬時に動揺を消してニタリと不適な笑みを顔に張り付けた。ただ、内心「大丈夫なのかコイツ」という思いで一杯である。

「どうした?来ないのなら此方から行くぞ?」

特に構えている訳でもないのに、隙がない。その圧倒的な力の差をまざまざと見せ付けられ、ナマエの額からは冷や汗が一筋流れた。
動けないナマエへとDIOが一歩一歩着実に距離を縮めていく。ナマエは臨戦態勢を取る…のではなく、地面へ膝をついて咳き込んだ。此処へ来て持病が悪化したのだ。

「うっ…、ゲッホ!ゲッホ!!」
「えっ。私はまだ何もしてないぞ!?おい、ナマエ大丈夫か」

激しく咳き込み、時折血反吐を吐くナマエを見兼ねたDIOがその背を優しく擦ってやる。そこには敵同士という垣根を越えた何かが生まれようとしていた。

「おい、本当に大丈夫なのか?」
「く、くるし…酸素…」
「わ、分かった酸素ボンベを持ってくるから死ぬなよ!?いいな!?」
「は、早く…」
「此処に居ろよ!?動くんじゃあないぞ!?」

その後、DIOがナマエの背を撫で励ましている様を目の当たりにしてしまい、戦う気が失せたジョースター一行はDIOと話し合いで決着をつけた。

(14/04/26)
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