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「あーッ!ちょっと、ディアボロさん!そっちじゃないですって!そっちは即死ルートなんですから!ここで死んだらまた此処まで戻るの大変なんですよ!セーブ大分前なんだから」
「キングクリムゾンを使えば何とかなる」
「なりませんよ!死んだ結果だけが残るだけでしょうが!!」

只今、私とディアボロさんは仲良く肩を並べて絶賛ホラーゲームプレイ中である。朝から夕方まで休憩無しでぶっ続けでゲームをしていた為か(トイレ休憩だけはあったが)、ディアボロさんの思考回路が少しおかしくなっている。それはディアボロさんに限ったことではないが。
二人してアドレナリンでも分泌しているのかやたらハイなテンションでゲームを進めていく。すると、夕飯の買い出しから戻ってきた吉良さんが私達を見るなり、盛大な溜め息を吐いてくださった。

「…おい。まだその下らないゲームをしていたのか。いい加減にしないとコンセント抜くからな」
「今良いとこなんですよ!もうすぐステージボスが現れるんですから!」
「ステージボスであろうが何だろうが知ったこっちゃあない。ゲームは二時間までと決めていただろう?」
「吉良、頼む。今日だけは許してくれ」
「お願いします吉良さん!」

二人で口を揃えて吉良さんに懇願する(但し、視線はゲーム画面から離さない)。
お願い攻撃が効いたのか、吉良さんは「あと一時間だけなら許してやる」と意外にもあっさり折れてくれた。

「だから、さっさとボスの所へ行くんだ」

何だかんだ言って吉良さんもゲームが気になるらしい。ちゃっかり私の隣に座り込み、小さいブラウン管テレビに映し出されたゲーム画面に集中し始めた。

「では、吉良のご期待に答えるとするか」
「イエーイ!ディアボロさんやっちゃってください!グレネードランチャーぶちこみましょう!」
「……これがボスなのか……?気持ちの悪いデザインだな。これをデザインした人間の面を拝んでみたいよ」

……と、気合いは十分だったものの。結果は敢えなく惨敗。
このステージボス、物語の核心的なボスではないからと侮るなかれ。攻略サイト始めレビューサイトにはコイツには手を焼いたとのコメントが多々寄せられ、攻略本でも苦戦を強いられると堂々と記されている。話の盛りすぎだろうと高を括っていたものの、あながちそういう訳ではなかったらしい。その証拠に、ディアボロさんが10回も勝負を挑んでいるのに全く勝てる兆しがないのだ。
そしてそのステージボスに苦戦している内にいつの間にか吉良さんの他にもギャラリー―もとい住人たち―が集まっていた。

「ディアボロ、さっさとこの気持ちの悪い肉の塊を倒して先へ進むのだ。見ていて不快という感情しか湧かん」
「煩い!倒せたらとっくに倒している!倒せないから困っているんだ!」
「何だ、お前の腕前はその程度なのか。テレンスには遠く及ばんな」

カーズさんとDIOさんがディアボロさんの後ろから野次を飛ばし、ディアボロさんの集中力を奪っていく。それにより更にミスが増え、同時に勝算も減っていく。

「そこはマグナムの方が良いのではないのか?」
「いや、手榴弾だろう」

ついにはディアボロさんのプレイにも口を出し始めたカーズさんとDIOさんに耐えきれなくなったディアボロさんはゲームを投げ出した。

「……ナマエ、パスだ。お前がやれ」
「任せてください。こんな敵ごときさくっと倒してやりますよ」
「いや、待て。このDIOがやってやる」

ふんぞり返ってコントローラーを寄越せと催促してくるDIOさん。はっきり言って、テレビゲームを弄ったことの無い素人同然のDIOさんに倒せる敵だとは思えない。しかし、やりたいと言っているDIOさんをそのまま無下にも出来ず、大人しくコントローラーを渡すことにした。

「……ム、このボタンが銃を構えるボタンで、こっちが発砲ボタン?じゃあこれは?なにィ、走るボタン?何故一つにしない?」

むしろ一つに纏めた方がややこしいと思うのだが。
DIOさんにコントローラーを譲り、数秒後。操作方法をいまいち理解出来ずにその場でくるくる回っているところを敵にやられ、ゲームオーバー。

「……つまらんゲームだな。テレンスもお前たちも何故このテレビゲームを好き好んでするのか理解に苦しむ。私はダニエルのようにトランプの方が好きだ」
「(完全に負け惜しみだ…)」
「じゃあやりたいってしゃしゃり出るなよ。貸せ。次は俺にやらせろ」

今度はDIOさんからディエゴくんにバトンタッチだ。

「ジョニィの家で見たことあるからクリアなんて楽勝だぜ」
「見た?やったじゃなくて?」
「ジョースター君が一人プレイ用のゲームだからとやらせてくれなかった」

吉良さんと顔を見合わせる。まさかこんなに身近に現代版ジャイアンが居たとは思いもしなかった。
ディエゴくんは淡々と自分の分身であるプレイヤーキャラを動かし、ものの数分でステージボスを撃破。その腕前足るや鮮やかなもので、あれだけゲームを馬鹿にしていたDIOさんですら感心しきっていた程だ。兎にも角にもディエゴくんのお陰で先に進めることになった。

それから少し進むと大きな音でプレイヤーを脅かしてくるスポットがある。これを事前に知っていた私やディエゴくん、それにこんなちっぽけな事では驚かない住人たちは大した反応もせず(ゲーム制作者からしたらつまらないプレイヤーだろう)、ただテレビ画面を眺めるだけ。
だが、吉良さんだけは違った。ホラーゲームをプレイしたことも無ければ、片手で足りる程しかお目にかかっていない彼にとってはホラーゲームは未知の世界。勝手が分からず、いきなり窓ガラスを突き破って現れたゾンビにビクリと肩を震わせた。

「……ゴホンッ…んん、」

一人だけビビったのが恥ずかしかったらしい吉良さんは、咳払いで誤魔化そうとしたが駄目だった。ヴァレンタインさんがいち早く吉良さんの羞恥心を察知し、「吉良もビビるようなことがあるのだな」とからかい始めたのだ。しかし、吉良さんもやられっぱなしではない。丸めた雑誌でヴァレンタインさんの頭をスパーン!と叩いて黙らせていた。後にも先にも現・合衆国大統領の頭を雑誌でぶっ叩ける人間は彼だけだろう(レアだからサインでも貰っておこうか)。

「ホラーゲームも中々面白いな。私も吉良同様あまり見たことは無かったが悪くはない」

ヴァレンタインさんが叩かれた頭頂部を擦りながら言う。

「そうでしょうそうでしょう!ヴァレンタインさんもやってみますか?」
「いや、それは遠慮しておこう。見るだけで十分だ」
「そうですか…残念ですね。合衆国大統領がゲームする姿見てみたかったのに」
「その姿を見せるにしろ、それは今ではない。ナマエ、君と二人きりの時に見せよう」

そう囁いて肩を抱いてくるヴァレンタインさんをどうしようかと考えあぐねていると、吉良さんがヴァレンタインさんの腕をつねってくれた。恨みがましく私から離れるヴァレンタインさんに苦笑しつつ、またゲーム画面が映し出されるテレビに意識を集中させる。

暫くディエゴくんの神業の如きプレイに酔いしれていると、吉良さんが「私にもやらせてくれないか」とディエゴくんに向かって手を差し出した。あんなにゲームを目の敵にしていた吉良さんが、実際にプレイしてみたいとまで言い出す程に興味を持ったのだ。ある意味進歩と言えよう。
ボスや難所はディエゴくんが進めてくれたので、後は道なりに進んでいくだけだ。超初心者の吉良さんでも操作方法を覚えれば、このステージだけはクリア出来るだろう。

「吉良、出来るのか?」
「さあね。だが、今見ている感じで何となくコツは掴んだよ」

此処に居る全員が半信半疑だったものの、吉良さんのこの言葉は嘘ではなかった。
何でも卒なくこなす吉良さんのこと、テレビゲームに関しても例外ではなかったのだ。一度説明書に目を通しただけで操作方法をマスターし、キャラクターを自由自在に動かして見せた。これがホラーゲーム初心者だと言うのだから驚きだ。同じ初心者のDIOさんとは大違いである。

暫くただひたすらゲームに熱中していた吉良さんだったが、突然何かを思い出したのか「あ、」と短く声を上げた。皆の視線が集まる中、その口から発された言葉は予想外のものであった。

「プッチ、すまないが洗濯物を畳んでくれないか」
「…何故私なんだ」
「君はゲームに興味なさそうだし、何より暇だろう?」
「いや、暇ではないよ」
「良いから。早く」
「…………」

一人ゲームには目もくれず、部屋の隅で聖書を片手に読書タイムと洒落混んでいたプッチさんは吉良さんの標的にされてしまった。彼の中でゲームをしていない=暇という方程式が成り立っているらしい。極端すぎる。
こんな時の吉良さんは面倒だと経験上分かっているので、私も手伝いを申し出れば、プッチさんは「すまないね」と微笑んで見せてくれた。重くなった腰を上げてテレビの前を横切ると、「テレビが見えない」と吉良さんにお尻を叩かれた。これセクハラで訴えられる気がする。
プッチさんも私に倣い、テレビの前を横切ろうとした…のだが。数歩踏み出しただけで何かに躓いて前のめりになってしまう。その何かとは――。

「あーッ!!おいプッチ貴様ァッ!!」
「な、何なんだ!?」
「コンセントに足引っ掻けただろう!?お陰でデータが吹っ飛んだぞ!!?」
「何故人のせいにするんだ!元はと言えば君がセーブしていないのが問題じゃあないのか!」
「ベタな方法でコンセント抜いておいて開き直るのか!」

――コンセントだった。
お陰で電源が切れ、全てが水の泡。セーブデータも大分前の物しか残っていない状態だ。
ディアボロさんがプッチさんを責める声を聞きながら、私はそそくさと洗濯物を取り込みにかかるのだった。


‐‐‐‐‐‐‐‐

リクエスト有難う御座いました!
荒木荘住人はホラゲーやってもちっとも怖がらなさそうですよね。逆に怖がらせても面白いかなとは思ったのですが、吉良さんだけに吃驚して頂いて、他のボスたちは淡々とゲームをさせました。オチはべたべたな展開です。

(14/10/16)


□おまけ
「プッチさんもホラーゲームしませんか?結構楽しいですよ」
「いや、難しいだろうし私はいいよ」
「じゃあじゃあ私が操作するので、プッチさんは攻撃ボタンだけ押すのでも駄目ですか?」
「そうだな…、それなら構わないよ」
「じゃあプッチさんは左側のボタン押してくださいね」
「分かった」

「ただい…お、お前たちどうしてそんなに近付いているんだ!?」
「あ、ディアボロさんおかえりなさい。今ちょうどプッチさんとゲームしてて…」
「だからって何故肩が当たるくらい近づく必要がある!?離れろッ!」
「ディアボロ…騒がしいな君は。こうしないと二人でゲームが出来ないだろう?」
「いや出来るだろう!!?良いからさっさと離れろ!」
「ちょ、ちょっとディアボロさん、どうしたんですか…」
「ナマエ、ディアボロはカルシウムが足りていないだけだから放っておくと良いよ」
「?、はあ…」
「一々苛つく男だな貴様は!!」
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