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その日は珍しくナマエとドッピオ以外の住人は皆出払っており、二人きりでの留守番となった。何も珍しいことではない。何度とあることで、その日も何事も問題が無く過ぎていくものだと思っていた。

その日のナマエはもうすぐ夕飯だから、というドッピオの忠告を丸っきり無視してスナック菓子を摘まんでいた。
バリバリと小気味の良い音が静かな部屋に響き、嚥下する度に上下するナマエの白い喉をドッピオは何をするでもなくただぼうっと眺めていた。

「…あのう、ドッピオくん?私の顔に何か付いてる?ご飯前にお菓子食べたのは謝るから、そうやってじっと見られるのは…」

ナマエの言葉を遮り、ドッピオは「……ナマエさんを、」と言葉を発した。それに幾ばくか面食らったナマエは僅かに居住まいを正し応える。

「は、はい」
「…ボスが言ってたんです」
「な、なにを…?」
「ナマエさんを食べたいってボスが言ってたんです」
「え」

あまりにも現実離れした言葉にナマエは目を白黒させた。突拍子が無さすぎてどんな反応をすれば良いのかも分からないし、どの反応が果たして正解に当たるのかも分からない。

「ナマエさんの腕でも足でも何処でも良いから持ってきたら、僕にも半分食べさせてくれるとも言ってました。ナマエさんを食べたら僕らひとつになれますか?」
「いや、あの、いきなり過ぎて訳が分からな…」
「ね、ナマエさん。きっとそれをしたら"シアワセ"になれるって、僕は思うんです。ボスも、僕も、ナマエさんも皆幸せになれる唯一の道なんです」

そんなものが唯一の幸せであってたまるか。
ナマエは内心そう思いながら、スナック菓子を一摘みしてドッピオの口に近づけた。

「…ねえ、ドッピオくん。私の四肢はあげれないけど、これならあげる。だから今はこれで我慢して欲しいな、なんて……」
「…………」
「駄目、かな…?」

差し出されたスナック菓子を一瞥し、ドッピオは静かに口を開き、放り込まれたそれを噛み締めた。まるでナマエの骨を噛み砕くように、味わいながら何度も何度も噛み締めて、ナマエの目を真っ直ぐに見据えてそれを胃の中へと導いた。

(14/10/06)
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