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「ドジャァ〜〜ン!!連れて戻ってきた!」
「キャーッ!!あなたが二人も!」
「スカーレット、落ち着きなさい」

原作の世界がどうかは知ったこっちゃないが、この世界の私はスカーレットにスタンド能力を知られている為、時折今日のようにスタンド能力を見せろとせがまれてしまう。そして見せたが最後、このように疲れる喜ばれ方をするので困ったものだ。私が二人居ようが三人居ようがそこまで興奮するに至る事象だろうか。

「…あら?今日連れてきたナマエは男性なのね」
「なに?何を言って……」

そんな馬鹿な、と半信半疑で背後を振り返り…己が目を疑った。
確かにスカーレットの言う通り、隣の世界から連れてきた私は何処からどう見ても男性で…。しかしそんな馬鹿な、本来なら此処に居るべきは同性のナマエ・ヴァレンタインでないといけない筈なのだ。今まで何らかの手違いでさえ、異性を連れてきた事なんて一度たりともありはしなかった。
ただ、無限にある隣の世界。男性のナマエ・ヴァレンタインが居てもおかしくはないというのもまた事実。…だが、これではナマエ・ヴァレンタインというより――。

「此処は何処だ?私がスタンド能力を使った訳では無い筈だが…何故此処に"私"が居る?」

――本物のファニー・ヴァレンタイン。


事態を理解してからすぐに血の気がサーッと引いていく。
何ということだ…まさかこんな事態になるなんて…。目の前に居るのが異性の私ならどれだけ良かったか。だが、彼は間違いなくファニー・ヴァレンタインその人で。ああ…ドえらいのを連れてきてしまった…。
本当はずっと密かに危惧していたのだ。何れかの隣の世界に本物のファニー・ヴァレンタインが存在しているのではと。けれど、私は基本世界の彼と成り代わって此処に居るのだから、それは無いだろうと勝手に決め付けていた。脳の隅へと追いやって考えないようにしていた。そうすることで余計なことにまで頭を回さなくて済んだから都合が良かったのだ。
しかし、その考えが間違っていたことが証明された。私はもう少し、ほんの少しだけこういった"有り得ないとは言い切れない可能性"に目を向けるべきだったのだ。実際にこうしてファニー・ヴァレンタインは存在していたし、五感で感じ取れる程に近くに居る。そして厄介なことに相手もどうやら基本世界の人間のような口振り。そんなことって有り得るのだろうか(実際に起こっているのだから有り得るのだが)。

「其処に居るもう一人の私よ。どういう事か説明して貰おうか」
「あ、ああ、そうだな…だが、簡単な話だ…。私がスタンド能力を使ってお前を此処へ連れて来た、それだけのこと」
「ほう…と、いうことは有り得ない話だが、お前も基本世界のファニー・ヴァレンタインということか」
「流石は私だ。話が早くて助かるよ。ただ一つ訂正させて貰うなら、私の名はナマエ・ヴァレンタインだ」

互いが互いを注意深く観察する。性別は違えども自分を見、また自分に見られるというのはあまり気持ちの良いものではないが。

「ああんッ男性のナマエもまた素敵ね!」

お互いが品定めの真っ最中だというのにスカーレットだけは相変わらずだ。本物のファニー・ヴァレンタインを見て歓声を上げている。その心臓に毛でも生えているのか?という逞しさが今は少しだけ羨ましい。

「でも、あたしはやっぱりナマエの方が好きですわ!」
「有難う、スカーレット。でも顔が近い」

これでもかと言うほど顔を近づけてくるスカーレットを引き剥がす。本物のヴァレンタイン(以下ファニーと呼ばせて貰おう)は先程のスカーレットの発言が引っ掛かるらしく少し怪訝そうな表情を浮かべている。

「…今、"男性の"と言ったか?」
「ええ、そうよ。此方のナマエは女性なの。隠しているけれどね」
「何だと…」

それは本当か!?少し興奮気味にファニーが私の胸を迷い無い手付きで触ってきたので、取り敢えずビンタをかましておいた。

「グ…!何をする!」
「それは此方の台詞だ!いきなり人の胸を触るだなんていい年した大人が恥ずかしくはないのか!?同じ人間ながら情けない!恥を知れ!」
「手っ取り早い確認の為だ。こうするしかないだろう」
「他に幾らでも違う方法が有ると思うが!?」
「ああ…そうか局部を、」
「それ以上言ったらビンタだけで済むと思うな」

隣の世界からやって来た自分自身であろうが、いきなり胸を触られて怒らない人間が居るのだろうか。居るなら拝んでみたいところだ。兎に角、私は触られると怒る。だから、スカーレットがどさくさに紛れて「あたしもまだまともに触ってないのに!」と憤っていたとしても当然怒る。

「まったく…とんだ男を此方の世界に引き込んでしまったようだな…」
「私は此方の世界に来れて良かったと思っているが…。まさか女性のファニー・ヴァレンタインに会えるとは思っていなかったのでな…」
「私は最悪だが」
「まあそう言うな。こうして会ったのも偶然だとは考えたくない。…すまないが、もう少し顔をよく見せてくれないか」

そう言ってファニーは私の顎を人差し指で掬った。
自分の顔が見たいのなら鏡でも眺めていればてっとり早いと言うのに…。こうも不躾に真正面から顔をじろじろと見られるというのはあまり気分の良いものではない。ここは無駄に元気なスカーレットにどうにかして貰おうと彼女を見れば、「あっ、いいのよ。あたしの事は無視して続けてッ!!良いわッ、なんて素敵な光景なのかしら!」と早口で捲し立てられたのでこの世には神も仏も居ないということが証明された。

しかもそんな時に限ってタイミングよく誰かがやって来るのだ。この場合はブラックモアがそうだった。数回のノックの後、扉の先から現れたブラックモアは、ファニーを見て少し驚いた表情でこう言った。

「すみませェん、大統領この書類に……あ、大統領、ついに工事して男性になられたのですね……おめでとうございます…」
「工事じゃないよ!!!よく見ろ馬鹿!!」
「…アッ」

ブラックモアは自分の犯してしまった醜態に気付いたらしい。何時もの調子で「すみませェん」と謝罪をしてきた。今回ばかりは真面目に謝られている気がしない。今日から一週間面倒な仕事ばかり押し付けてやるから覚悟しておけ…。

「…大体察しましたァ…大統領のスタンド能力ですね?しかし工事していないにも関わらず、何故男性の大統領が…?貴女のスタンド能力ならば女性が来る筈では…?」
「(工事工事煩いなこいつ…)それなのだが、私にもよく分からないのだ。何時ものように連れてきたらこうなっていた」
「中々に特殊なケースのようですねェ…」
「ああ」

ブラックモアと二人してファニーの顔を見据える。それに気付いたファニーが「私の顔に何か付いているか?」と問うてきたので「目と鼻と口」と返しておいた。


「…で、これから私はどうすれば良いんだね?ちゃんと返してくれるのか?まさか片道ってことは無いだろうな?」
「勿論だ。丁重にお送りしよう。何なら今すぐにでも」
「そうか。それを聞いて安心したよ。だが、今すぐというのは些か惜しい。もう少しこの世界を見て回りたいのだが…」
「さっさと帰れ」

しっしっと手で追い払う仕草をすれば、すかさずスカーレットが間に入ってきた。

「まあまあ、ナマエ。あともう少しくらい良いじゃない!彼も自分の世界と此方の世界がどう違うのか気になるのよ」
「君はそうやって彼を庇う振りをして男の私に気があるだけだろう」
「……アッッ、そうだわ!あたしが案内して差し上げますッ!」

私の言葉を聞かなかった振りをし(沈黙が何よりも肯定している証明になるというのに)、スカーレットがファニーと腕を組んだ。
その瞬間、体内にドロリとしたものが流れ込んだ気がした。何か酷くどす黒く、そして醜いものだ。その質の悪いものは体の芯で燻り、私を解放してくれない。…こんな感覚は生まれて初めてで、お世辞にも気持ちのいいものだとは言えない。なんと、気持ちの悪い、

「さ、行きましょう!」
「ああ、案内頼むよ」

二人が連れ立って歩き出そうと一歩踏み出した瞬間、私は弾かれたようにスカーレットの腕をとった。

「ナマエ…?どうし、」

戸惑ったスカーレットが全ての言葉を吐き出す前に、スカーレットを己の胸に抱いていた。

「彼女は私の妻だ。あまり馴れ馴れしく触れないで貰おうか」

その場に居た全員が呆気に取られた顔をしていたと思う。自ら啖呵を切った私も含めて。何せほとんど無意識下での行動で、自分自身スカーレットを腕の中に閉じ込めるまで何をしているのか分からなかったのだから。

それから一番最初に我に返ったのはスカーレットだった。

「…う、うそ…ナマエったら嫉妬してくれているの?」
「しっと…?」

鸚鵡返しに聞き返す。"嫉妬"って、あの…?
そんな馬鹿な、と否定してしまいたかったが、その言葉が今現在の自分の状況にあんまりにもしっくり来たものだから。理解すると同時に笑いが込み上げてきた。
―嗚呼、そうか。私はファニー・ヴァレンタインという男に嫉妬していたのか。年甲斐もなく、駄々を捏ねる子供のようにスカーレットを取られてしまいたくないと。知らず知らずの内に胸の内に醜い感情を抱いていたのだ。

「すみませェん…そういう訳なのでご案内ならば私が…」
「…そうだな。そうした方が良さそうだ。お前に頼むことにしよう、ブラックモア」

ブラックモアが気を利かせてファニーを部屋から連れ出してくれた。
部屋に残されたのは私とスカーレットの二人だけ。改めてスカーレットが私に向き直り、顔を覗き込んでくる。

「ナマエがヤキモチを焼いてくれるなんて初めてね」
「…ああ、そうだな」
「それに、こんなに素直なのも初めてじゃあないかしら」
「あんなに些細なことで嫉妬する私を嫌いになった?」
「まさか。もっと好きになりました」

にこりと柔らかく微笑み、スカーレットは私の頬にキスを一つ贈ってくれた。


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葵様、じゅんじゅん様リクエスト有難う御座いました!

あまり本物の大統領とは絡ませられず、夢主とスカーレットのイチャイチャがメインに…。でも、本編では書くことのないスカーレットに対しての夢主のデレが書けて書いた本人は楽しかったです←

(14/06/13)
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