誕生



「ヨハン!誕生日おめでとう!」
「ああ、ありがとう!十代!」

今日はヨハン・アンデルセンの誕生日だった。
ブルー寮で二人きりで過ごすヨハンと十代。既に先ほどまで、明日香やジム達とバースデーパーティーを開き、御馳走やバースデーケーキを食べ祝ってきたところだった。デュエルも何試合とやっただろう。それでもまだやりたいと騒いだ十代とヨハンは皆と別れ、主役の自室に戻り今に至る。
E・HEROデッキやN・HEROデッキやM・HEROや宝玉獣デッキやアドバンス宝玉獣デッキ。ひとしきりデュエルを楽しみ、心地好い充実感で満たされてきた頃、十代はぽつり呟いた。

「…なぁ、ヨハン。
俺さ、ヨハンがすっげぇ大好きだ。」
「ん?俺も十代が大好きだぜ!」

いつもお馴染みに繰り返される、十代とヨハンの会話。十代がヨハンを想っているように、ヨハンも同じように想っていた。出逢った頃から変わらない。
意志疎通。以心伝心。阿吽の呼吸。
それらの言葉は十代とヨハンのためにあるようなものと錯覚するほど、互いは互いを同じように想い意識し高めあってた。勿論、親友として。
そんな親友、十代の眉が少し屈んだ。

「いや、ヨハン。そうじゃない。俺はヨハンの全てが大好きだ。」
「うん…?俺も十代の全てが大好きだぜ…?」

何処が、そうじゃない、のか分からなかったが、ヨハンが十代の全てが大好きだったことには変わりはないので、いつものように同意する。
だが、十代は嬉しそうではない。なんで分かんないかなー…と言いたげに、口をすぼめた。

「だからな、ヨハン。俺はヨハンが大好きだ。俺はヨハンを構成しているもの全てが大好きなんだ。その碧色の瞳も、その髪も、その口も、その服も、その靴も、その腰も、その手も、その頭も、ぜーんぶ好きなんだ!」
「う、うん…ありがとな、十代。俺も十代が……?」

普段あまり見ない十代の切羽詰まりの剣幕にたじろぎながらも、いつものように同意をしようかと思うと、十代はそっとヨハンの腕を取り、指を眺めてきた。ただならぬ親友の様子に怯んでしまう。
これは懐かしいかな。いや、ヨハンは実際見たことはなかったが、異世界に飛ばされ仲間ともはぐれ四面楚歌となり、身も精神もぼろぼろになった十代の切羽詰まり感に似ていた。
まるでユベルが乗っ取ったヨハンのように。愛するもののためならなんだってやってやる…!と虚ろな瞳が語ってた。

十代はヨハンの人差し指をじ…っと眺めたと思うと、それを口元に当て、いきなり噛みちぎった。

「…いっ!?」

噛みちぎられた人差し指の傷口からは、血がたらたらとこぼれた。青に身を包んだヨハンでも血液は鮮明な赤色をしていた。床にぽと、ぽと、と血が落ちる。まるで美しいものを見るかのように、十代はその傷口を見つめる。その十代の瞳には少しの哀愁と安堵が混じっているようだった。

「十代…何をして…」

「ヨハンの体はこの傷口を治そうとするだろ?きっとすぐ新しくなる。
つまり、俺に傷つけられたヨハンの人差し指は今日新しく生まれるんだ!
新しいヨハンの細胞の誕生を、俺の傷で生まれさせるこの喜び!なあ!」

同意………出来なかった。出来るはずがなかった。したくなかった。
元々、赤の他人と意志疎通なんてしてなかったんだ。以心伝心なんて有り得なかったんだ。阿吽の呼吸なんて存在しなかったんだ。
十代は十代であってヨハンじゃない。ヨハンはヨハンであって十代じゃない。いくら似た者同士と言われようと差異はある。いくら初めて会った気がしないと友人以上の縁を感じても理解出来ないことはある。
ユベルに乗っ取られた身とはいえ、この手の、愛する者からの痛みこそ愛!の持論は理解出来なかった。今の十代がユベルと超融合している身とはいえ、ユベルの意志は十代には反映していないはずだった。きっと異世界での出来事が十代を大人にさせた。その十代が得た持論なのだろうか。
痛みを分かち合うより、痛み合わないよう手を取り合う方が先だろ!とヨハンは常々言いたかったのだ。
ヨハンは十代の手を取り、虚ろな瞳を見つめて告げる。

「じ、十代。お前はもう違うだろ。……っ十代!?」

ヨハンの意志を他所に、十代は手を取られた自分の人差し指をそのまま噛みちぎった。
そこからはヨハンと同じように赤い血がたらたらとこぼれた。赤に身を包んだ十代は流石血液も鮮明な赤色をしていた。床にぽと、ぽと、と血が落ちる。まるで汚いものを見るかのように、十代はその傷口を見つめる。その十代の瞳には少しの哀愁と安堵が混じっているようだった。

「ヨハン!これで俺のこの人差し指の細胞も今日が誕生日!
な!俺からのプレゼントに相応しくないか!」

同意が出来ないならば同じ意味を作ってしまえばいい、と結論つけた十代は、至極幸せそうに告げた。いつも見てきた満面の笑み。
何も問題は解決していないが、十代が幸せそうなら俺も幸せか、と思うヨハンは、十代より先にひとつ大人になった故に得た持論か。
そんな持論、大破してしまえ、と願いながら、十代にプレゼントありがとうと言った。











あとがき
誕生日なのに災難ヨハンくん。
生誕おめでとう。ヨハン・アンデルセン。
2013/6/17







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