快晴



青空が今日も綺麗です。

「なぁ……。ヨハン」

いい天気だな、などの言葉では現せられない快晴だ。昨夜は人間の理不尽により怒った大地から怒鳴られたようなゲリラ豪雨が降った。パラパラ、ぽつぽつ、ザァーザァーなんて擬音語はあるけれど、ゴゴゴゴてなんだ。明らか雨の擬音語とは思えないよな。地鳴りだぜ地鳴り。分かった。堪忍袋の尾が切れた大地は俺達の乗っているプレートを剥いで大気圏に投げ出す音だろ。全くもう。ありがとうございます。

「なんだ十代」

怒りを通り越し、哀しみの涙の豪雨だったかのか。朝には止み上がり、晴天が溢れてた。見るも無惨に眩しいばかりの真っ青で、白い綿菓子雲も一つたりとも食べられない程の、なにもない青の一色だけの全くもって綺麗な、まるで、…まるで厭味ったらしく下を俯きたくなる空だ。あれだろ。こうやって美しい世界と美しくない世界を交互に見せやがってそれでも生きたいと前向きな自己満を見せる俺達を嘲笑っているんだろ。どうもありがとうございます。

「空は、なんで青いんだと思う?」

青の他になにもないだなんてことないぜ。空っぽ、ってやつがある。空っぽ、って知ってるか。なにも、ない、ってことだぜ。あの、なにもない青だけの世界。そいつに覆われる。襲われる。喰われる。…潰される。ただ在るだけの青なのに妄想も大概にしろ!や、単なる被害妄想かもしれない。こんな憎みたくなるむしろ呪ってもいいか?その青目掛けて唾を吐いてもいいか。自分に唾がかかってくることは知っているから。そんぐらいの悪態つかなきゃやってけない、なんて。なんて幼い。

「そりゃ、あれだろ。光の反射で青色だけが残ってるからじゃなかったか。」

単なる青ではない。真っ青なんだ。雨上がりは排気ガスやら効果ガススモッグやら俺らの憂鬱やら厭味ったらしやらを洗い流し、単なる青ではない真っ青な色になるんだ。これは雨上がりだけに見える美しい世界の一つ。晴れているというのに世界はすぐに曇るから、元々あった、何も覆われてやしない素の世界に浸れる唯一のチャンスだ。美しい。綺麗だ。
…だからさぁ。なんでこんな『美しい』姿見せるかなぁ。

「そりゃあ、ヨハンの目が青いからだろ。」

一羽の鴉が上空を飛んでいるようだ。気持ち良さそう。きっとお前はあの青に溺れているんだ。お前が美しいんじゃない。青が美しいから、それに浸れる自分が誇らしく、自慢げに気持ちいいんだろ。わかるぜ。そうやってお前は青に潰されるんだ。末路は呆気なく果敢無い。儚い。青に潰されることを拒んだ鴉は3階建て小学校の校舎から自殺を試みたらしい。呆気なく失敗したがな。わかるだろ。そいつにも潰されることを拒み抗いだ力に、抗う力が、言うなれば黒い翼があったんだよ。

「は?何言って…
「お前の目が青いから。空は青いんだ。」

空が今日も青であることに何を願っているか知ってるか。昨日も今日も明日も変わらないことを変わらないことであることを願っているんだ。変わらないことが変わらない喜びの確認、変わらないことが変わらない安堵の優越、変わらないことが変わらない不安憤りへの憤慨を、確かめる。それだけのために顔を上げるんだ。雨上がりの、真っ青なる青に、顔を上げたくもないのに見上げたくてしょうがないのは、それらの確認作業を確実にするため。嫌々ながらも内心舞い踊ってんだせ。

「じゃあ、栗色のお前の瞳は栗色の空を映してんのか?」

俺は泣いたらいいのだろうか。笑えばいいんだろうか。今の俺の感情を現すならなんだと思う。空[クウ]だ。空[カラ]っぽ。つまりは空[ムナ]しい。空[クウ]である俺は空[カラ]っぽである空[ソラ]により空[ムナ]しくなっている。なんという自己破産。本末転倒。無価値窮まりない。あぁ。今日も青空が綺麗であることは、今日もこんな無価値を繰り返すわけであるとも言えてしまうんだから、一体全体俺は俺の何を確かと認めればいいんだろう。そう、ヒトっていう生物の属種はくだらない輪廻を繰り返すだけの生き物なのさ。全くもう。ありがとうございます。
なぁ。こんなときどうすればいいか知ってるか?
…教えてやんね。

「当たり前だろ」

そう、叢に寝そべってた体を起こし、ヨハンを見る。ヨハンはというと、いつものことだと呆れもせず驚きもせずただふっと笑い、寝そべったまま眼だけを俺に向けた。
あぁ。その眼だ。その眼の青。
俺は、お前の、お前の!その青に 潰さ れ  る   。


負けじと皮肉ったらしく、俺はそいつの額にキスをかましてやった。

「ん。ありがとな。十代。」









あとがき
愛おしく憎いヨハンの青に潰される(実は潰されたい)二十代様を実はすべて知ってて親愛の意を抱いてるヨハンの話。
葉音はama zarashiというバンドを尊敬し敬愛しております。







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