死別




阿久根に菊を捧げる球磨川

『それは凋落ではなかった。衰退とは言いたくなかった。諸行無常の理は表さなくてもよかった。ただ死んだだけだ。僕が愛して愛おしくて愛でたくてやまなかった彼はいなくなったのだ。いや、そうじゃない。これは蘇りだ。死んだ彼が新たに生まれ変わった生誕であるはずなんだ。おめでたいね、おめでたい。実に僕は嬉しいよ。きみが僕を忘れないで、僕との出会いをなかったことにしないで、今きみがここに在ることに僕は嬉しく思う。本当は、過負荷的に言えば、きみが中学生の頃に壊した人間や壊した物体や、主の僕や元好きだったらしい愛しの安心院さんなんてすっかり忘れて、自分だけは幸せになれたみたいでよかったよ、と言いたいところだけど。まあ。僕も一時期は誰よりもきみの傍にいた人間だよ。きみが、きみに起きた事柄、目映いほどの煌めいた姿も苦虫噛み潰したような苦い経験も、全て味わって飲み下して今のきみがあることぐらい知ってるさ。人生は無意味で無価値で無関係だなんて言わせません、俺の生き様がそれを言いたくありません、なんてきみなら言うかもしれないね。そう言ってみせることが、どこまでもきみがプラスたる所以なんだけどさ。創造心だっけ?破壊臣の韻踏んだ命名するなんてきみはほんとに可愛いことするよね。数十億円のやり手社長とかどこの勝ち組だよまったく。これじゃあ僕が何処にいてもきみの居場所が分かるじゃないか。つくづくそつがないというか、ちゃっかりしてるというか、可愛いげがないよね。まったく。もう、やんなっちゃうぐらいにきらきらしてさ。

まあ。それでも…。僕は、破壊臣のきみが好きだった。綺麗だった。可愛かった。からっぽだったきみが僕を盲信して混沌に満ちていくのが堪らなく可笑しかった。それでもそれすら自分で選んだ道だと、僕を健気に着いて来ようとするきみが堪らなく愛おしかった。昔に戻りたいとは言わない。今のきみが嫌いだなんてそんなこと言ってないだろう?むしろ大好きだと言ってもいいぜ。大好きだぜ。プリンスのきみも、書記のきみも、一般生徒のきみもね。大丈夫、大好きだから。でもね。そう、ただの通過儀礼、ただのけじめってだけさ。僕との一瞬をなかったことにしてきたプリンスで書記のきみではなく、創造心のきみに僕からのプレゼント。黄色い菊の一輪花。受け取ってくれるかな。うん。泣かないで。ただ、きみがきみで在るためには僕の傍にいる必要はなく、僕が僕で在るためにはきみは傍にいなくてもよかっただけなんだ。きみには、何もない、ことなんてないよ。大丈夫。もう二度と、さよならは言わない。
ばいばい。高貴ちゃん。


(菊の花言葉「高貴」 それはどこまでもどこまでも気高き貴さを失わない綺麗な彼に相応しい名だった)』
















阿久根27歳、球磨川を呼ぶ

それは認めたくなかった。認めるべきだった。認めざるおえなかった。怠惰に堕ちていく俺を見ていてくれたあんたに最愛を抱いていた。めだかさんによって改心したあんたに親愛を抱いていた。愛する二人の女性と決別を迎えても本質の変わらなかったあんたに敬愛を抱いていた。そう。俺は変わったが、あんたも変わったんだ。それに少しの淋しさと安堵はあるものの凋落や衰退とは言い切れず、むしろそれは、成長、といえる代物の類いだった。まあ。それを捧げるにはあんたは負完全で、それを当て嵌めるには俺は出来上がっていて見向きもしなかった概念だけれど、今なら言える。俺達は成長したんだと。…それ故の別れなら致し方ない、と言えるか。言うか。否、言いたくない。言えるわけがない。出会いは必然で別れは突然で縁だけを頼りに今まで生きてきましたが、あんたとの縁なんて糸は中2の春でブチ切れたと思っていたのに、また出会えた偶然を思えば再び巡り合うのも当然ってやつでしょう。…そう思うことにしたんです。そう思いたいんです。成長の果てに結ぶ関係もあるでしょう。きっと俺だけの成長じゃあ色々と不十分だったのでしょうね。大丈夫です。逃げないで下さい。あんたがあんたたる所以をなくさないように努力してきたことを俺は昔から知っています。あんたが常に死と隣合わせにむしろ片足三途の川に浸して這い寄るような生き方をしてきたことも俺は5年前から知っています。そうそう、あんたは何処でも瀕死でしたね。だから何処かで誰からか捨てられていないかと、この十年間、ずっと探してきました。ずっとずっと、それはあんたと決別した3年間があっという間と思うほど、ずっとずっとずっと探していました。もしかすると、もう生きていないかもしれないあんたなら、それはあんたが望んだ生き様なのでしょう。
だがあんたは、あんたには

生きていて欲しい。

あんたが生きていることを、自分の境遇より弱いものがいる安心、等の理由などにはしたくないし、するつもりはありません。あんたはあんたのために生きていてほしい。生きるべきなんです。弱者のために、後輩のために生きてきたあんはは今こそ自分のために生きるべきだ。「俺の生き様こそがあんたが生きた生き様だ」なんて俺に格好つけさせてどうするんですか。黙ってないで出てきて下さいよ。
もう一度。
あんたへの恐怖と脅えに震えた声ではなく、あなたへの慈愛と信頼に満ちた声で呼びたい。呼んでみせますよ。
「球磨川さん。」



(呼ばせて下さい、球磨川さん。あんたとまた、笑い会いたい。)
















あとがき
原作補完悲哀編。(2013/5/14)





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -