想い出のキセキ | ナノ


▼ 隠された大陸 (9/11)

森は思いのほか深かった。
幸い海岸から一本道であった為迷う事は無かったが、いくら先に進んでもエルフの里らしき物は一向に見えてこない。
次第にロラン達にも疲れが見え始めていた。

「ねー!本当にエルフの里なんかあるのー!?」

運良く見つけた朽ちた切り株の上に座り込みながら、ラックが声を上げた。
いくらやり手の盗賊だとはいえ、パーティの最年少でもある彼女にはそろそろ限界なのだろう。
両腕を振り回して抗議の声を上げる彼女に、立ち上がる気配は無い。

「この辺で一旦休憩にしましょうか。ちょうどここは辺りより開けた場所のようですし」

ラックの様子を見兼ねたティアの提案に、意義を唱える者はいなかった。





「さっきから同じ場所を回ってる気がするんだよね」

各々が休憩を取る中、ふとティールがそう言いだした。
見張り役であるルースとレイムを除く全員が彼の方を見遣る。
一気に視線を集め照れたのか、ティールは若干苦笑を見せたが、すぐに真剣な顔つきに戻った。

「仕事柄、周りの風景の些細な違いには敏感なんだ。この場所……もう3回は通ってると思う」
「さ、3回?!」
「そりゃあ疲れるハズだよぉ〜」

切り株の上にいたラックは気だるげな声を上げ、項垂れる。
だが、すぐに立ち直ったのかパッと見を起こすと、さっきまでの態度とは一変、右手拳を高らかに突き上げた。

「よーし!ラックちゃんをここまで追い詰めたからには必ず見つけてやるんだから!待ってろお宝ー!!」

厳密には探しているのはお宝では無いのだが、彼女にとってなかなか見つからない物とはお宝のような物なのだろう。
意気揚々と勝利宣言を始めるラックの姿に釣られ、探索を再開しようと腰を上げた時、

「奇襲!構えて!!」

見張りのレイムが叫んだ。
慌てて腰の片手剣を抜き、構える。
ヒュン、と風を切る音が聞こえる。
一歩後ずさると足元に一本の矢が刺さっていた。
それを始まりに、至る所から風切り音が響いてきた。
片っ端から剣で弾いていくが、それでも避けきれない矢が服を肌を切り裂いていく。
ふと、頬に熱風を感じ振り向けば、同じく炎で飛んでくる矢を燃やし落としているレイラの姿があった。
彼女の腕の白い布に滲む赤い跡に歯をくいしばる。
視線を感じたのか彼女が振り向いた。
レイラと目が合った。
その一瞬だけで充分だった。
レイラの意図することを察し、ロランは彼女の元へ走り寄る。
途中、持ち前の素早さで矢の雨を潜り抜けるラックとレイム、得物を器用に振るい矢を払い落としていくルースとティール、シャイルに守られながら癒しの術を唱え続けているティアの様子が見えた。
彼らはきっと大丈夫だろう。
だから、俺はレイラを守ることだけ考える。

『大気をも焦がす、灼熱の精霊よ』

高い集中力と強い魔力が必要みたいだ。
普段は省略する詠唱の響きが聞こえる。

『舞え、踊れ、我が命令の元に』

頬を鋭い痛みが走ったが関係無い。
彼女の元に矢が行かないのであればそれでいい。

『地を引き裂く業火の豊穣を!』

「みんな、伏せろ!!」

ーーーーブレイズハーヴェスト!!

素早く身を屈めたロラン達の頭上を、荒れ狂う炎の塊が過ぎていった。
灼熱の嵐は無作為に見えて、それでいて確実に、空から降ってくる矢を焼き払っていく。
炎が消えた頃には辺りに漂うのは灰となった木片と、焼け焦げた匂いだけになっていた。

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