想い出のキセキ | ナノ


▼ 隠された大陸 (8/11)

「待って、待って、待ぁぁって!」

森の奥に進んで少し経った頃だった。
背後から呼び止められる。
振り返れば亜麻色の毛に覆われた獣人、自分達をここまで送ってくれた船の持ち主、ティールが息を切らせて立っていた。

「な…どうしたんだよ、ティール…」

相当な距離を走り続けていたのか、肩で息をするティールに歩み寄り声をかける。
しばらくして落ち着いたティールは真っ直ぐとロランに視線を向けた。
いつになく真剣な眼差しに、息を呑む。

「僕も、この先へ連れていって欲しいんだ!」
「連れていってって……でもそんな」

ティールの戦闘の腕は知らない。
しかし、この地は未だ謎に包まれたエルフの大陸だ。
何が起こるか解らない危険な場所にティールを連れていくことは憚られた。

「危険なのは充分解ってる。ここは未開の地で何があるのか君達にも解らないってことも、でも……呼ばれてる気がするんだ」
「呼ばれてる?」
「僕は、この場所を知っている」

ティールの発言に周囲が息を呑むのが解った。
この場所を外部の人間が知っているはずがない。
だが、ティールに嘘を付いている様子も、嘘を付く必要が無いのもまた事実だった。

「知ってる、とはちょっと違うのかな。ここにいると落ち着かなくて、何か僕にはするべきことがあるんだって」
「それって、デジャヴュってやつかしら?」
「うん、そんな感じ!だから考えたんだ。もしかしたらこの場所に、僕たちのずっと探してた物があるんじゃないかなって」

ティールの思いは切実だった。
同じく自分の存在を求め続けているロランには、その思いが痛い程良く分かった。

「大丈夫だよ、君たちの邪魔にならない様にって、みんなで相談して僕だけがここに来たんだ。それに、結構戦闘にも自信があるんだからね」

そう言って、どこから出したのか何時の間にか右手に握られていた細身の剣を手慣れた様子で振り回してみせる。
細やかながら力強いその太刀筋は、自信があるという発言は嘘では無いことを示していた。
ややあってロランから出された承諾の言葉に、ティールは満面の笑みを漏らした。

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