▼ 隠された大陸 (7/11)
突然の事に甲板に飛び出して来ていた他の者達とも合流し事情を話す。
大陸の端にあった桟橋に船を付け、恐る恐る踏み出せば、自分達がいた大陸と何ら変わりのない普通の大地が広がっていた。
「見た感じは変わらないね、生えている植物はちょっと違うけど」
屈んで草原を眺めながら、ルースが呟いた。
よく見れば、今までにない形の花びらを持った花がそこかしこに咲いている。
改めて、ここは未開の地なのだと実感した。
「人なんて住んでなさそうだけどー?」
頭の後ろで腕を組みながらラックが声を上げる。
所在無さげにしっぽが右に左に揺れていた。
「確かに、森しかないけど……」
大陸には謎の植物が茂る草原と、木々に囲まれた深い森しか無かった。
ラックの言う通り人が暮らしている雰囲気は無い。
しかし、先程「隠された大陸」という物を見てしまったのだ。
エルフ達の魔法の技術は自分達の常識を遥かに超えているだろう。
「ねえ、ロラン。メニリナさんから貰ったチャーム、何かに使えないかしら」
「ああ、そっか、あれが魔法を弱めてくれてたんだもんな」
上着のポケットに仕舞っていたチャームを取り出す。
外見に別段変わったところは見られなかった。
「……ちょっと、貸してみて」
言われるがまま、レイラの手にチャームを渡す。
彼女は少し考え込んだ後、チャームを両手に掲げ瞳を閉じた。
長年の付き合いで、彼女が魔法に関する何かをしているのだと解った。
最も、それが一体どういったものなのか、ロランには皆目見当もつかないのだが。
しばらくの後、おもむろにレイラは歩き出す。
慌てて着いていくと、彼女は何の変哲も無い木々を指差す。
ちょうど草原と森の境目の位置だ。
「どうしたんだ?」
「ここ……このチャームの魔力は、この先を示してる」
この先、そう言ってもレイラの指差す先は木々に覆われ、人が通れるような道は無かった。
「……なあ、またシャイルの力でどうにかならないのか?」
ロランは後方で様子を見ていたティアに問い掛ける。
途端ティアの精霊石が強く点滅し、カタカタと震えだした。
ティアは申し訳なさそうに首を振る。
無理だ、頼るな、そう何度も使えない、と言っているらしい。
「ねえ、あたしにも見せてよっ!」
痺れを切らしたラックが、レイラの手元のチャームを掻っ攫おうと、前のめりに飛び出した。
レイラの手から離れたチャームを、手慣れた様子で空中でつかみ取るラック。
拍子にバランスを崩したレイラを側にいたロランが支える。
ラックを咎めようと、ロランが口を開きかけた時、
ザワッ……
葉の擦れ合う音が響いた。
視線を移す。
大地を覆う木々が、右へ左へ、まるでロラン達に道を指し示すように幹を反らしていた。
その光景を言葉も出せず見守る。
「ラック……!お前、さっき何して……」
「し、知らないよ!あたしはこのチャームを触っただけで何もっ……!」
「ちょっと待ってラック、そのチャームを貸して!」
うろたえるラックの手からチャームを受け取る。
しばらく調べていたレイラは、やっぱり、と呟いた。
「……このチャームから、魔力が消えてるわ」
「魔力が消えてる?」
レイラの手の中のチャームを覗き込む。
別段変わったような所は、見られなかった。
「特に変わってないように見えるけど」
「あんたが見ても解るわけないでしょ」
言い返されて言葉に詰まる。
それはごもっともだ。
「まあ、とにかく。先に行ってみようよ」
ルースに促され、深い森の中に続く、開かれた道へと歩みを進めた。
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