想い出のキセキ | ナノ


▼ 隠された大陸 (6/11)

しばらく三人で唸っていると、バァアン!という大きな音と共に、操舵室の扉が開かれた。
驚いて振り返れば、緑のロングスカートに身を包んだ栗色の髪の少女。
その登場が彼女のものだったことに、さらに驚いた。
ティアは大きな音を立ててしまったことを申し訳なく思ったのか、伸ばした手を引いてぺこりと頭を下げる。

「す、すみません……あの、シャイルさんがどうしても話したいと……えっと、『すごくかなりとても急いで』」

彼女の奇行はそのシャイルに急かされたがゆえのものだったらしい。
しかし、見渡しても、シャイルらしき人物は見えなかった。
そもそも名前を聞くのも初めてだ。

「……で、そのシャイルさんって」
「ああ、そっか、ティール達は知らないんだっけ」
「新しい仲間?」
「まあそんなところかな……ティア以外には見えないんだけど」

ますます頭に疑問符を浮かべることになったティール達に、ティアが懇切丁寧に説明してくれた。
……大部分はよく解らなかったが、とにかくシャイルは不思議な存在で、主のティア以外には見えない、ということらしい。
その彼女、が、この海域には何かある、と言ったのだという。

「シャイルさんが気になるのは、その……ロランさんの持っているメニリナさんからのチャーム……」
「ああ、これか?……って、うわっ?!」

おもむろにズボンのポケットからチャームを取り出したロランは、その姿に思わず声をあげた。
声を上げた拍子に取り落としそうになったチャームを慌てて両手で握り締める。
握り締めた両手から溢れんばかりに青緑色の光が漏れ出していた。

「な、何が起きてるんだ?光ってる……?」

漏れ出した光は真っ直ぐにある一点を指していた。
操舵室から見える何も無い大海原…いや、隠されたエルフの大陸を。

「そのチャームには微力ながらエルフの魔法の効果を弱めるらしくて……魔法で隠された大陸をロランさんが見つけられたのはそれを持っていたからなんです」
「なるほど、な……でも、そしたら上陸するにはどうしたらいいんだ?」
「それなんですが……シャイルさんがそのチャームを貸してって」

言われた通り、ロランはティアに手の中のチャームを渡す。
触れていた指が離れた瞬間、見えていた大陸は何事も無かったかのようにただの海原に戻っていた。

「シャイルさん」

ティアの声と共に、チャームから放たれる光とはまた別の強い光がロラン達を包み込んだ。
優しく、暖かな、光。
ロラン達には見えないが、そこには一人の少女がいることだろう。

「精霊の力でチャームに篭った魔力を最大限まで増幅します。そうすれば、大陸にかけられた魔法を解除することが出来るはず」
「精霊ってそんなことも出来るのか?」
「元より精霊は魔力の結晶みたいなもの……だから、物に宿った魔力の操作は簡単なんだそうです」

チャームからさらに強い光が放出し始める。
キリキリと軋むような音が響いた。

「お、おい……壊れない、よな?」
「大丈夫だと思います……多分」

ティアも心配そうな顔をするが、シャイル本人は自信満々らしい。
光はさらに強くなり、チャームはカタカタと震えはじめる。

―――いくよっ!

そんな少女の声が聞こえた気がした。
次の瞬間、強い光が抑えが無くなった水のように暴発的に弾け飛んだ。
拍子に大きく船内が揺れる。
慌てたティールが咄嗟に舵を握った。

ティールの機転により沈没を免れた船は、数秒後異変が止まった時には何事もなかったかのように海に浮かんでいた。
チャームも壊れることはなく、床に転がっている。

「……あ、あれは……!」

ティールの声にロランは振り返る。

「……エルフの大陸……」

そこにはしっかりと、先程見たものと同じ、不思議な大陸が海に浮かんでいた。

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