▼ 私は…ええと何でしたっけ? (7/7)
「シェスナさん助けてください」
予想通りというかお約束というか、いつかのように空から落ちて、地面に埋まったユーフェルは僕に助けを求めてくる。
屋根がぶち抜けられなかっただけまだマシか。
「僕これから夕飯の準備しなきゃなんだけど?」
「なんて酷い!目の前で助けを求める翼の折れた天使を見捨てるのですか!シェスナさんの人で無し!」
「翼折れてないし、そもそも君は飛べないし、助けたところで僕にメリットはないし」
出会い当初のしおらしいあいつは何処へいったのやら。
ユーフェルが下宿の雰囲気に馴染むのは思いのほか早く、今ではしっかりと欠けてはならない一員と化している。
「シェスナさんどうしました?」
僕のいつもと違う様子に気付いたのか、ユーフェルが埋まったまま顔を覗き込んでくる。
「んー…ちょっと昔のこと思い出してた」
「昔のことですか」
「君が初めてここに来た時のこと。ねぇ、あれから何か思い出した?」
そう問えば、ユーフェルはあからさまに顔を曇らせる。
だがそれは一瞬のことで、すぐにいつものヘラヘラした笑い顔を見せた。
「残念ながら何も。もしかしたらどこか高貴なお坊ちゃまなのかもしれませんのにね、シェスナさんよりもずっとずっと、金持ちな!」
「そんな物語じみたこと、あるわけないだろ」
ユーフェルのポジティブな考えに内心ホッとする。
いつのまにか赤くなっていた空を見上げながら僕は夕飯の準備をするべく歩き出した。
「…って、ちょっと、シェスナさんー!?助けてくださいよー!!」
未だ埋まったまま、もがいている天使は放ったまま。
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