▼ 私は…ええと何でしたっけ? (4/7)
「いきなり何ですか!私は!…」
案の定、翼の男は僕の質問に目を丸くし、食ってかかる。
「私は…ええと何でしたっけ?」
「はい?」
…ことは無かった。
しきり頭を動かしながら、うー…やら、あー…やらと唸り続けている。
「…とりあえずさ、名前は?」
「名前?…なまえ……」
彼はまた頭を抱え、唸り出した。
やがて、小さくポツリと呟く。
「わから…ない……わかりません、私、誰なんでしょう」
「わからない…?」
記憶が無い、ということなのだろうか。
彼はたいそう困惑した様子で、辺りをきょろきょろと見回している。
デュムフレイに新しく送られた住人かとも思ったが、来る途中に記憶喪失になったという話は聞いたことが無かった。
そもそもこちらに来る場合は、色々と手続きが必要なのである。
いきなり下宿に穴を空けるなんてこと……って。
「この穴の原因はお前かあああ!?」
「えええぇぇぇっ!?」
いきなり叫んだ僕に、彼はびくりと肩を震わせ跳び上がる。
いや、今のは僕も悪かった。
突然叫ばれて驚くのもごもっともである。
「…記憶が無いのでわかりかねますが、多分落ちてきたんでしょうね…なんか、ごめんなさい」
「…あ、いや、…いいんだ。後で直して貰うから。君に怪我が無くてよかった」
普段周りにいる奴らが奴らなだけに、こうして素直に謝られると調子が狂う。
でもなんだか普通の人みたいで嬉しい。
「ああ、あれですか。次の日になってると何故かボロボロのハズの建物があら不思議元通り。ご都合主義ってやつですね」
前言撤回。
やはりコイツも変だった。
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