▼ 風の民の少女 (3/4)
「族長様、リーンベルが参りました」
侍女の言葉に族長は入り口へ顔を向ける。
侍女に促され族長に向かい頭を下げる、栗色の髪の少女がいた。
「頭を上げよ、リーンベル」
族長の声にリーンベルは怖ず怖ずと顔を上げた。
「族長様…」
「そんなに畏まるでない。普段のまま接するがよい」
族長の言葉と優しげな顔に、リーンベルは今まで強張っていた表情を和らげる。
「おばあちゃん、…」
「…本当によいのか?」
念を押す族長――いや、自身の祖母にリーンベルはこくりと頷く。
「前にも言ったでしょ?私はみんなの役に立てて嬉しいんだ」
「しかし、おぬしの身に何かあれば私は…」
族長のてまえ、民の者にはリーンベルを風使いにせよ、と言った祖母ではあったが、本当は彼女が一番リーンベルのことを心配しているのだった。
そのことがわかっているリーンベルは、柔らかく微笑み、祖母のしわがれた手を優しく手にとる。
「大丈夫よ、私には精霊さんがついてるもの。
それに、前に話してくれたじゃない。
風使いには守護精獣がついてくれる、きっとその子が私を守ってくれるよ」
「リーンベル……」
「私は、大丈夫だから」
「リーンベル」
先程とは違う祖母の声にリーンベルは祖母から離れ姿勢を正す。
その顔は見知った優しい祖母の顔ではなく、厳格な風の民族長の顔だった。
「そなたに命ずる」
「はい」
「風使いとなり、世界に風を運んでまいれ」
「はい」
「まずは掟に従い、風獣の神殿にて神獣様から風使いの証を授かってまいるのじゃ」
「了解いたしました」
リーンベルは一度だけ深く頭を下げてから族長に背を向ける。
「ありがとう、おばあちゃん」
最後に顔だけ祖母に向け微笑むと、リーンベルは族長の間を後にした。
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