ごろりと寝転んだ視線の先ではたくさんの星が瞬いていた。憎たらしいくらい綺麗で、思わずうっとり見入ってしまった。


「綺麗だな」

「…うん」


私と同じように隣で寝転んでいる奴もどうやら同じ事を考えていたらしい。二人で同じように寝転んで星空を見て、同じ事を考えているなんて何かロマンチック。素敵。


「私もね、同じ事考えてた…んだけど、さ」


気分はちょっとした乙女モードへ突入したのだけど、ちらりと隣の男の方へ顔を向けた瞬間全力で現実に引き戻された。血濡れた横顔、ボロボロの羽織。鼻はとうに利かないけど辺りは血生臭いのだろう。こんなんでロマンチックもクソもない。


「地上は地獄だっつーのにな」

「ほんとだよ」


起き上って辺りを見渡せば横たわる人数多。きっと今この辺りで息をしているのは私達だけ、だ。よくこんな軽傷で済んでるもんだ。私も、こいつも。
隣の男を見下ろせば、男はまだ空を見ていた。いつまでそうしてるつもりなんだろう。いつまでも留まってはいれないのに。


「ねぇ、そろそろ移動しよ」

「おう」

「……ねぇ」

「分かってらぁ」

「分かってないじゃん!」


返事だけで動く気配のない男に思わず語勢が荒くなった。一体何を考えているのか。この男は。
ちょっと!と声をかけ、体を揺さぶる。するとようやく視線だけが動いた。じろり。その視線に震えた。だって何を考えているのか全く分からなかったんだから。


「な、に」

「最後かもしんねーだろ」

「…何が」

「お前と星空眺めるなんてよ」

「どういう意味よ」


さいご。その言葉に視界が揺れた。最後だなんて縁起でもない。何が最後なの?どうして最後なの?どうして、そんな事を言うの。


「やめてよ」


そんな事言うの。と、気付けば男の言葉を待たずに私は言葉を発していた。その声は酷く震えていて、とても頼りなかった。


「やめねーよ」

「……」

「つーかむしろ最後にしようぜ」

「えっ?」

「こんなとこで星空眺めるなんてよ」


そう言って起き上った男は真っ直ぐ私を見た。相変わらず何を考えているか分からないけれど、口元が笑っていた。


「今度は酒でも持って、もっといいとこで星空観賞といこうや」

「もっといいとこって?」

「とりあえずここじゃねーとこ」

「ヅラと高杉も一緒に?」

「…どっちでも」


少しの間に、もしかしたら私と二人がいいのかな、と考えて頬が熱くなった。馬鹿!何考えてるんだ私は!
私がこんな恥ずかしい事を考えてる間に男は「よいしょ」と立ち上がって、そしてまた夜空を見た。どんだけ空見れば気が済むんだこの男は。


「じゃ約束ね」

「おう」

「絶対ね」

「分かったから、ほらよ。行こうぜ」


差し出された手を握って立ち上がる。汚れていてゴツゴツしていてそれでいて温かいその手に酷く安心した。汚れているのはお互い様だけど。


「なぁ」

「ん?」

「お前の手、温かくて何か安心したわ」

「…私も同じ事考えてた」


私達とっても気が合うみたいだね、と言うと「じゃなきゃ一緒に居ねーよ」と返ってきた。恥ずかしくて嬉しくて、握った手に力を込めた。


「銀時」

「あん?」

「生きて帰ろうね」

「ったりめーだろ」


根拠なんてどこにもない。それでも、温かくて大きな手がしっかりと握り返してくれたから、大丈夫だと、心の底からそう思えた。



穢れ無き戯言

お題:hakusei
20121113

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